10/09の日記
21:57
新入社員・一護の受難(下の続き)
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発注より、三日。
在庫がある限り、基本的には手配の翌日に商品は届け先に納品される。
よって、一護は安堵の息を吐いていた。
理由は、藍染から連絡がこなかったからである。
故に、気を抜いていた時だった。
プルル……
正午に鳴り響く、電話。
だが、上記の通り、一護は安心しきっていた。
特に警戒もなく電話を手に取り。
「やぁ、一護君。久しぶりだね」
受話器から聞こえた声に、一護の表情が一瞬にして凍りついた。
何で今更、とか声も聞かずに何故解ったんだ、とか。
反射的に突っ込みが脳裏をよぎるものの、凍りついたのは口も同じようである。
声を出すどころか、舌を動かすことすら出来ず。
一護は、全身を硬直したまま見事に固まっていた。
「どうしたのかな。ああ、電話が遅いと拗ねているのかい?すまなかったね、本当ならもっと早く電話をする予定だったのだけれど」
一護を無視し、実に機嫌が良さそうに語る藍染は、正しく社長(寧ろ独裁者)である。
仕事が忙しくてね、なに、無論君の方が大切なのだがね、それでは君が気にしてしまうだろう?だから、全てを終わらせてからにしたんだよ。もしかして、それが不満だったのかな?大丈夫だよ、私が第一に優先させるのは、勿論君だ。安心したまえ。
すらすらと淀みなく吐き出される言葉に、一護はドン引きする一方で、強烈な寒気にぞくりと躯を震わせる。
次いで「一護君ならば、声を聞かずとも愛で解るよ」などと囁かれ、一護はより襲い来るおぞましさを堪えた。
たとえどれだけ奇人変人変態であったとしても、相手は一社の社長。
大切な取引先である。
我慢だ、耐えろと自らに言い聞かせる一護をよそに、藍染がたった今思い出した、といわんばかりにさらりと「今回電話した理由なのだけれどね」と口火を切った。
「届いた商品が、一つ違っていたよ」
声は、依然として穏やかなままである。
だが、どことなく不穏に感じるのは、単なる一護の気の所為か。
「あ……すみません」
謝罪を口にすり一護だが、内心では「畜生!正解は逆か!!」と盛大に舌を打っていた。
困ったな、我が社では皆好みが激しくてね。違う種類は頑として口をつけようつしないんだよ。
などと白々しく且つ穏やかさを保ちながら宣う藍染だが、内包される不穏さは増す一方である。
それを無意識に感じ取った一護は、言いがかりに聞こえるのは何故だろう、などと現実逃避に走るのだった。
〜続く〜
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