悪魔と暮らそう

□悪魔と暮らそう
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「マヒト!おかえり!」
家に帰ると、悪魔だけが迎え入れてくれた。
一人でいるための安心材料である本を失った僕は今日一日のとても長い時間を、ただ外を呆と見て過すのに使った。
あの本には羽根も挟んであったのにな。と羽根の形を思い返す。少し惜しい気がした。
「悪魔。ちょっと羽根見せて」
「いいぞ!」
悪魔はくるりと背中を向けると、顔だけこちらに向けて「何?何?」と言っている。
悪魔の背中には僕の拾った羽根とそっくりの羽根がいくつも重なりあって一つの翼になっていた。一枚ちょうだいと言えばくれると思うけれど、僕は折角綺麗に並んでいる中から一枚取るのもなんだか嫌だったので、「なんでもない。もういいよ」と言った。悪魔は気になって「何?教えて」と言って来たけれど、しばらく無視をした。

次の日。悪魔は早起きだった。
「マヒト!おはよう!」
「早いね・・・」
学校に行く準備をすると小説を一冊鞄に入れてからリビングに向かい、またパンを焼いて食べた。悪魔は食べ物を食べなくても生きていけるみたいで、特に欲しいとも言ってこなかった。
リビングは広いので、僕が朝食を取る間は悪魔が頭上をぐるぐると飛んで遊んでいた。食べ終わると鞄を手に持ち玄関へ向かった。
「マヒト!ガッコウか?」
ついてきた悪魔が僕に尋ねる。僕は「そうだよ」と答えると、靴を履いた。
「オレも一緒に行ってもいいか!?」
急に興味が湧いたのか、家にいることに飽きたのか、悪魔が初めてそう言った。
「・・・つまらない場所だよ」
伏せた目でそう言った僕に構わず悪魔は「行きたい!!」とごねる。
「だって君、悪魔じゃん」
当たり前のことを突きつけてみる。悪魔が引き下がる様子はない。
「大丈夫!マヒト以外の人間には見えない!」
悪魔がそう叫んだ。それをきいて僕は悪魔の方を振り返った。
「・・・・・・見えないの?本当に?」
飛んでいる悪魔を見上げながら、僕はゆっくりと尋ねた。
「見えない!絶対!」
だから母親にも見つからなかったんだ。考えてみれば悪魔なんて普通は見えない。僕にだけ見えるというのもおかしな話だけれど。
「連れていってくれる・・・!?」
悪魔が期待に満ちた目で僕を見つめる。
この際だから外に連れて行って色々と試してみようと「いいよ。好きにすれば」と返事をする。
「そのかわり、ちゃんと言うことをきいてね」というのも忘れない。言うことをきいてくれなければ試したいことも試せない。
悪魔が「うん!!」と笑顔でいい返事をするのを聞いて、僕たちは外に出た。

いつもの通学路。別に決められている訳ではないけれど、自分なりに一番近いと思う道を歩く。そのうちに前方から二人が歩いてやってきた。悪魔は僕の後ろを飛んでいる。もし悪魔が見えていれば格好や耳や尻尾で驚くだろうし、飛んでいれば流石にコスプレだとも思わないだろう。
二人は楽しそうに会話している。こちらを少し見たようだけど、それは僕がどこを歩いて来るのかの確認をしただけだったらしく、簡単にすれ違い過ぎて去って行った。
どうやら悪魔は本当に他の人に見えないらしい。僕は悪魔を見上げて、小さな声で「本当に見えてないんだね」と呟いた。「マヒト以外には見えないぞ」と念を押すように悪魔が言う。
「物は触れてたみたいだけど、人にも触れるの?」
模様替えではベッドや本棚を軽々と持ち上げていたけれど、人となるとどうなのだろう?やっぱり他人だと触れないのかな?そもそも、僕とも触れ合ったことはないから他人というより人間に触れるかが問題になるのかな?
などと色々考えていたけれど、悪魔は「触れる!人も物も軽々だ!」と自信満々に答えた。
「・・・へぇ」
そうか、悪魔には人も、軽々なんだ。
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