悪魔と暮らそう

□悪魔と暮らそう
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「なにこれ」
学校からの帰り道、僕は羽を拾った。
いつの間にか鞄の端に引っ掛かっていた、黒くて綺麗な形のその羽を僕は一目で気に入り、そのまま持ち帰った。

家に帰るといつも通り部屋にこもった。ベッドにごろんと横になると、もう何度も読み返した漫画を手に取りページを開いた。
漫画も三冊目に入る頃、コンコン。と窓に何かが当たる音がした。
気のせいだろうと漫画に目を落とすと、今度はコンコンコン。と窓を叩く音が聞こえた。誰かのいたずらか何かだろうとカーテンを開けると、そこには宙に浮かぶ黒い髪の少年がいた。
少年は窓に鍵がかかっているのもお構いなしに身体を半分だけ家の中に入れ、こう言い放った。
「オレ、悪魔。何日か泊めて!」
悪魔は突然、僕の家へとやってきたのだった。



悪魔と暮らそう



「いいよ」
悪魔の「泊めて」という言葉に、僕は簡単に返事をし悪魔を家へと招き入れた。彼の背中には小さな羽根があり、所々黒い身体の人間でいうおしりの部分から、カクカクとした尻尾が生えていた。
悪魔は僕の部屋に入るとベッドを興味深げに見つめ、おそるおそる乗っかると今度は飛んで遊び出した。
余程気に入ったのかわき目も降らずにぴょんぴょんしている。その姿はまるで人間の少年の様だった。
「これ、ちょうだい!」
しばらくベッドで飛んで遊んだ後、悪魔はベッドを指差してそう言った。
唯一のお気に入りであるベッドだったから少し悩みはしたけれど、僕は「・・・・・・いいよ」と答えた。
それを聞いた悪魔は悪魔とは思えない笑顔を見せ、「ホントウか!?」と訊ねてくる。僕は飛んでいる悪魔を見上げながら「うん」と簡単に答えてみせた。
「持っていっても?」
「いいよ」
どこに?とは訊かなかった。悪魔だというくらいだから地獄とかなんだろうか?地獄にベッドは必要なのかな?イメージではとてもその場所にそぐわないように思う。
「ありがとう」
それでも悪魔はとても嬉しそうに笑った。
「・・・・・・」
こんなに素直にお礼を言われたのは久しぶりだ。
「でも、泊まるんじゃなかったの?」
「あぁ!!!?」
うちにやってきた悪魔は、悪魔というよりまだ子どもらしさを残した少年のようだった。

「マヒト!」
悪魔は僕のことを、マヒトと呼んだ。
「真仁(シンジ)だってば・・・」
何度教えても悪魔は「マヒト!マヒト!」と僕のことを呼ぶ。昨日から何度言っても直らないので、もうマヒトでいいかと思い始めている。
「どこ行くんだ?」
うきうきとした様子で悪魔が玄関先までやってくる。
「学校」
簡単に答えると、僕は靴を履き、「ガッコウ?」と尻尾を器用に?の形にする悪魔を置いて、ドアノブに手をかけた。
「そ。じゃあ、行って来るから留守番よろしくね」
「分かったぞ!」
悪魔が家を守れるのか。でも、居候扱いとするなら留守番してもらっても問題はないだろう。母親が悪魔を見て、卒倒しなきゃいいけど。

学校に着き、自分の席に着くと僕は鞄から小説を取り出した。本は嫌いじゃない。漫画は学校じゃ読めないから、一人になりたい時には小説が一番だ。一人になりたいというか、元々一人だし、関わって欲しくもないけれど。
昨日の続きを読んでいく。そのうちに先生が来て、ホームルーム開始の合図をする。僕はふと昨日の羽を思い出し、今挟んでいるしおりの代わりに本の間に挟んだ。本を閉じる前にもう一度羽根をじっくりと見てみる。やっぱり綺麗だ。この羽根は、あの悪魔のものなのだろうか。

家に帰ると、いつも通り部屋に続く階段を上がった。
悪魔は僕の部屋のベッドの上で、僕の漫画を読んでいた。
「あっ!マヒト!おかえり!」
僕の姿を見ると、漫画を放り出し、僕の周りをぐるぐると飛んだ。
部屋を見回すと朝とは大違いでぐちゃぐちゃだった。普通は怒るものかもしれないけれど、僕は「ああ、悪魔って物に触れるんだ」と少し関心した。
鞄を下ろすと、散らかった部屋を片付けながらついでに模様替えでもしようと閃いた。
「ねぇ、ちょっと模様替え手伝ってよ」
「いいぞ!何すればいいんだ?」
「ベッドと本棚とテレビ動かしてほしい」
「分かった!」
勢いよく返事をするものだからどんなマジックで動かすのかと思ってみていたら、普通に手でベッドを掴んで持ち上げたので、悪魔界もまだまだだなと勝手に思い描いていた世界を少し書き直した。

次の日。布団から起き上がり、眠い目をこすると、一応ベッドの上に悪魔がいることを確認した。どうやら夢じゃないみたいだ。
布団を畳むと学生服に着替え、学校鞄を手にする。布団を引けるように模様替えをした僕の部屋は、少し広く感じた。そのうちに目を覚ました悪魔が「マヒト!おはよう!」と元気に挨拶をする。悪魔に低血圧とか関係ないみたいだ。
部屋から出ると一階に降り、リビングに向かう。母が倒れてないところをみる限り、悪魔とは対面していないのだろう。適当にパンを食べて、僕は学校へと向かった。
学校に着くと、いつもの様に、校門で数人が僕を待っていた。
友達じゃない。友達なんていない。
「シーンジくん」
その低い声に肩を震わせる。
「時間通りだね」
にやりと笑うクラスメイトは、僕を肩ごと捕まえて校舎まで連れて行く途中僕の鞄をひったくった。
そして鞄から今日も読むはずだった本を取り出した。
「いつも一人で寂しそうだから、これは預かっておいてあげる」
「わー、やっさしーい」
そういって仲間同士で笑い合ったクラスメイトこそが悪魔だと僕は思う。
今日も何も言い返すことが出来ず、バシバシと叩かれた肩や背中が痛むのを堪えながらばら撒かれた鞄の中身を鞄に戻す。
人目の少ない時間だから目撃者はいない。拾っている間に数人が通ったけれど、僕はただ、鞄のチャックを開けたまま転倒して中身を落としてしまった情けない男子生徒にしか見えないだろう。
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