短編・バトン

□熱と色
1ページ/1ページ

「っふぅ、っ…」

抑えてもあがる小刻みな声。
それがどうにも羞恥を煽って僕はぎゅっと自分自身の手で塞ぐ。
声を聞かせて欲しい。
手や指を傷つけるからやめろ。
何度も御剣に繰り返されてきたけれど、だからと言って素直にハイと聞けるわけがない。
そりゃ感じている声が聞きたいという心理はわかる。
けれど僕の中で、この状況が今でも信じられない。
男に足開いて、僕ももっているものを突っ込まれて、あまつさえ感じて声がでてるなんて。
この恥ずかしさ。
立場が違う御剣には分からないんだろう。

「駄目だ、噛むな成歩堂」
「…っ、っ、でも…」

とうとう業を煮やしたのか、御剣は歯形がついた手の甲を一度癒すように撫で、それからぎゅっと握った。
同時に色素の薄い瞳と視線が絡む。
これから容赦なく責め立てると決めたのだろうか。
すでに奥に熱をはらんでいたのに、さらに燃えるように瞳がきらめく。
その色に意図せずに身が震えた。

「ああっ…!」

手を振り払おうと形ばかりの抵抗をしたら、逃がさないとばかりにより痛いくらいに掴まれ口に指を含まれた。
かと思えば一気に腰を奥に入れられる。
今までの緩やかな刺激から一気に落とされるような感覚に背筋が震える。
指先は御剣の舌でなぶられたままで、激しく揺さぶられた。
膨らんだ先端が、痺れるような快感を生み出す場所をごりごりと擦っていく。
同時に御剣の放った白濁が湿った音をたてた。
見えはしないけれど、きっと泡だってすごいことになっているんだろう。

「あん、ああっああ、はあ…!」

打ちつけられる度に肺から息が押し出されるように、声が漏れる。
近づいて卑猥な言葉を囁く唇も、力強く握られたままの手も全てが僕を煽った。
もう高く掠れる声を抑えられない、――抑える必要もない。
後はただひたすら高みを目指して、御剣と僕の熱を合わせるだけ。
単純なようで複雑。
同時にお互いを意識してタイミングよく身体を動かしていく。
御剣が出ていく瞬間に引き留めるように。
僕が力を抜いたその時に、御剣が力強く押し入って。
リズミカルに二人で律動を刻むけれど、それでも僕はまだ満足できなかった。
まだだよ、御剣。
まだこんなもんじゃないだろう?
…形振り構わずもっと僕を求めてよ。

「あああぁ、ああ、いや、もうやだぁっ…」
「何が嫌だ? 気持ちよくないのか?」

気持ちよくないわけがないのにわざとからかう御剣に僕は悔しくなる。
最初なんて服をろくに脱がせる余裕もなく僕に覆いかぶさったくせに。
後ろから押さえつけ、知らない第三者がみれば無理矢理にされていると誤解されるほどの勢いで。
一度出せば余裕が持てるのも同じ男として知っているけれど、これじゃ僕ばかりが翻弄されているみたいで悔しい。

「ちが、けど…っ、ああ、や、あ、もっ…」
「やはり嫌か、ならば止めるか?」

嫌なわけがない。わかってるくせに。
言葉遊びなんかするな。
そんな余裕こそぎ落としてやりたい。
止まらない腰の動きに掠れた声を出しながらも、非難をこめて睨みつける。
涙目でそうしたってどうせ大した効果はないんだろうけれど。
しかし予想に反して御剣は驚いたように目を見張った。
同時に僕を苛んでいたペニスの動きも止まり、じいんと余韻で腰が疼く。
意図が分からず視線を合わせるけれど、何故か御剣は僕を凝視して動かない。
まさか本気で焦らす作戦に切り替えた、なんて。
ここまで煽って、お前だけでいっぱいになって。
あとは高みに一緒に上るだけってところで、そんなこと許さない。

「ば、ほ、ホントに止めるなよっ…!つ、辛いから、早く、いかせて、御剣!」

こんなことまで言ってしまうほど余裕がないのに。
だから、御剣を煽るように腰を自分からくいと動かした。
御剣の大きなものを飲み込んでひくついて、でも更に刺激を欲しがっている。
恥ずかしい、はしたない、そんな言葉すら僕の中に生まれない。
そうして一瞬の空白の後、急激にやってきた嵐のような責め立てに、僕はまさしく悲鳴を上げさせられた。
もう考える余裕なんてない。
ただただ御剣の色のついた瞳をみて、呼吸を聞いて、ひたすら感じる。全身で。
ようやく待ち望んでいたつま先から頭のてっぺんまで支配される強い強い快楽。
音もぐちゅぐちゅと大きく派手なものへと変わる。

分かるのは身体を貫く激しい熱。
そして御剣の欲情の色がともった瞳。

ああ、そうだ。
これが僕はほしかった。
御剣が。
あの氷のように冷たい目をしていた御剣が。
取り繕うこともなく、一心に僕を欲しがって瞳に熱を持っている。
そう、僕は、本当はこの瞬間がみたくて声を抑える。
恥ずかしいのも本当だけど、ちょっとサドっ気があるお前だから逃げたがる獲物の方が狩り甲斐があるだろう?

「ああっ! ひ、ぃっああ」

突き破られそうな勢いで何度も僕の中を御剣がむさぼっていく。
既に限界を迎えそうだったペニスを痛いほどに握られて、もう痛みだか快感だか分からない状態で。
でもぐちゃぐちゃの感覚の中でも、御剣の余裕のない行動に嬉しさがこみ上げる。
いいよ、御剣。
もっと狂って。
そのためなら声でもなんでも聞かせてあげる。
だからその色と熱をもっと僕に、浴びるほどにそそいで。

「あああああああ―――!!」

これ以上はないというほど奥まで御剣の熱が到達し、そして更に熱い奔流が僕の中に注がれる。
感じすぎて震える僕の身体はもうとっくに限界を向かえて白濁を吐き出していたから、堪らない。
達して敏感になっている内部に押し込めるように腰を突き出されて、嬌声が止められなかった。
ようやく満足したのか、大きく息を吐いた御剣がゆっくりとペニスを引き抜く。
ごぽり、と音をたて、精液が僕の中から溢れかえって肌を伝う感覚にも身震いする。

「あ、…っぁ、…」

あんなにも熱かった身体が急激に冷えていく。
落ちていきそうな意識で、それでも冷める体温がイヤで御剣に向かって手を伸ばすとぎゅっと抱き込まれた。
激情がなりをひそめ、穏やかな色を刷いて僕を見つめてくる。

――ああ、この瞳の色もいいな。

御剣の腕、暖かな熱の中で僕はそっと瞳を閉じた。




―――――――――――
御剣を独占したい成歩堂でした。
お互いがお互いに弱くて骨抜きだといいです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ