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□嫉妬
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「もう、僕帰る。」
「成歩堂!?」

突然成歩堂が席から立ち上がった。
そう言われても何が起こったのかわからない私は、驚いて彼を見上げるしかない。

「会計、これくらいだろ。半分置いてく。」
「いきなりどうしたというのだ、成歩堂?」

私の問いに答えず、彼はそのまま自分の財布から数枚の札を抜き出し、テーブルに押し付けるように置いた。
そのまま鞄とコートを取り出し、本当に帰り出す。
歩いていく成歩堂を呆然と一瞬見送ったあと、慌てて金を掴み、彼の後を追った。
店の出口の前で追いつき、腕を掴む。

「待て、本当に帰るのか!?」
「そう言ったろ。…離せよ。」
「何が気に障ったのだ?私は君に何かしたか?」

問いかけるが彼はまた答えなかった。
沈黙する横顔から察するに怒っているらしいが、私には本当に心当たりがなかった。

今日は平日だが、いつものように彼の事務所に私が出向き、二人で夕食を共にと出かけた。
それから適当に車を流し、目ぼしい居酒屋に入って食事をしていた。
…本当にいつものことだ。
特に変わったことはしていないし、話してもいない。
料理も普通だし、何かが違うと言えば…。

「お客様、お帰りですか?コートやお荷物がお席にございますが…。」

思考を中断させたのは、この店の女性店員だった。
彼女が話しかけてきた途端、成歩堂がびくっと反応したのが、掴んでいた腕越しに伝わった。

――いつもと違うことは。

どうも接客過剰ではないか、というくらいのこの店員のサービスだ。
呼んでもいないのに何かと話しかけてきたり、茶を持ってきたりしていた。
ようやく合点がいった私は、帰る旨を店員に告げた。
彼に少し待ちたまえ、と釘を刺して自分の荷物を取りに行く。

「あの、…お客様、また当店をご利用ください。お待ちしておりますので…。」

会計をする際に、そう話しかけられた。
目元を赤らめながら店の名刺を手渡そうとしている。

「…すまないが、もうこちらには来ないだろう。結構だ。」

目を開き驚愕で言葉が発せられない様子の店員を他所に、私は成歩堂へ向き直った。
成歩堂も驚いた表情をしている。
そんな彼に、行こうと背中に手をあてて促した。

外に出て、改めて彼に話しかける。

「これからどうする?食事も中途半端で出てきたし、別の店を探すか?」
「…御剣は、何で、出てきたの…。」
「別段あの店は美味いほうではなかったからな。今度は個室がある店にしよう。」

あえて本当の理由には触れず、料理の味を悪者にした。
振り返ると、数歩後を歩いていた成歩堂は、横を向いて考えているようだった。
その横顔で、今度は彼が照れを堪えているのが分かった。

「…それならお前の部屋がいい。」

先程の出来事も帳消しにされる程の、彼の思わぬ発言に、私は破顔した。

―――――――――――
今回は「嫉妬」で。
なるほど君は結構やきもち焼くんじゃないかなー。
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