後何マイル?

□恋人まで後何マイル?
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「おはよう成歩堂。今日も可愛らしいな。」
「寝言は寝て言え。」

御剣のいつもの一言に、僕は相も変わらずこめかみをひくつかせながら返す。

お帰りはあちらです、と事務所の入り口を示し、追い払うように手を振る。

「ふ、そう照れずともよかろう?それともアレか?言外に私と二度寝したいと訴えているのか?」
「どっから湧くの。その発想。もういいから、お前。早く帰れよ。」
「来たばかりだぞ。」
「僕これから仕事です。お前に付き合ってる暇ないの。」
「そういうが、昨日も閑古鳥が鳴いていたではないか。」

痛いところを突かれて、僕はぐっと言葉に詰まった。

ああ、誰でもいいから依頼人こないかな。
早くこの男を追い出したい。
というか、帰れって言ってるのに何なの、この強引な居座りっぷり。

「今日も暇になるのだろう?なら私に付き合え。」
「いや、暇だとしても何でお前に付き合うことになるの。つか、暇じゃないから。」
「今現在、どこをどうみても暇だろう。」

あああ、もういい加減にしてくれ。
このままだと押し問答を続けたあげく、御剣に拉致されかねない。

身の危険を感じ、僕はまだ午前中だというのにどっと疲れを感じた。

失踪から戻ってきた、この頭に一足早く春が来ている男は。
諸外国を回っているうちに、本当にどこか一本ネジをゆるめてきたらしい。
あの失踪前の堅物な態度はどこへやら、一転僕に気色悪いことばかりぬかしてくる。
こうして自分に差し迫った仕事がないと、事務所に入り浸り、僕に対して“可愛い”やら“好きだ”やら“付き合え”やら。
果ては…、いや、よそう。
こんな事思い出しても仕方ない。

ともかくこの営業妨害野郎をなんとかせねば。
拉致られたら終わりなのだ。
以前、一回だけ、あまりにうるさいから奴の言うとおり外に出かけたらひどい目に遭った。

こんな時にかぎって真宵ちゃんはお休みだし。
頼りになるのは自分以外いない。

「つれないな、成歩堂。私達は幼馴染の親友ではないのか?」
「通常の親友はお前のような思考回路は持ちません。」

そう、こいつの思考は常にひとつ。
あわよくば押し倒そうと――、ってホントあの時は良く無事に帰ってこれたもんだ。

「私は私の考え、気持ちでもって動いているのだから当たり前だろう。通常の枠など知るものか。」
「いや、常識は気にしてください。もうホント頼むから。なんで男の親友に迫られなきゃなんないの。」
「それは私が君を愛して―「だまれ。」」

がこん!

あ。
当たっちゃった。

じりじりと御剣がにじり寄ってきたものだから、思わず来客用のガラスの灰皿を投げつけてしまった。

けっこう大きい音がしたけど、…まあ血も出てないようだし。

そっか、これからまた迫られたらこうすればいいのか。

床に失神した御剣を見て、僕は彼の監視人を携帯で呼び出した。
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