ちい姫さまの恋事情

□対 称
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先帝弟の三の宮である有明の宮さま。
彼の住まいは五条にある前右大臣の邸だという。

その邸は有明の宮さまが前右大臣にたいそう可愛がられていた縁から、是非にと貰い受けたのだそうだ。




「遠路はるばるようこそ、ちい姫。我が邸へ」


「お招きいただきありがとうございます…」


一条から五条へと少し遠い距離を牛車に揺られた私を、嬉しそうな有明の宮さまが出迎えてくれた。

普通、邸の主自身が客人を出迎えるなんてことはまずない。
宮さまは普通の人ではないからと、私はそれを気にしないで牛車を降りた。

唯一連れてきた女房、浮草が横から顔を隠せと衵扇(あこめおうぎ)を私に渡す。
以前有明の宮さまがわざわざ返してくれた扇は使っていない。


何をどうしたのか、あの短期間で有明の宮さまの香が染みついてしまっていて、使うに使いきれなかったから。


宮さまの匂いが、するから。
…お気に入りだったのに。



「ちい姫、案内するからこちらへおいで」


「……」


「大丈夫、ちゃんと衛門督も呼んでいるから安心して?」


「…っな、」


「ほら、行こうね」


宮さまは私のこころの中を見透かすように、目を細めて笑い私の手を引いて歩き始めた。

私は赤くなった顔を見られまいと、深く扇に顔をうずめる。




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