ちい姫さまの恋事情
□宮と督
2ページ/21ページ
「……ごめんね?」
私が黙りこくったままだったから、宮さまが優しく謝罪の言葉を呟いた。
甘い、囁くような声音。
御簾越しでも分かる、高貴な身分ゆえの近寄りがたい雰囲気。
でも、表情は凄く柔らかい。
「…………。」
彼の持つ独特の雰囲気に気圧された私は、やっぱりまだ何も言うことが出来なかった。
「……ちい姫。お口をつぐんだままだったら、許してくれているのか分からないよ」
宮さまの口からため息が零れる。
このままでは失礼になる。
自分の身分を弁えなければならないのに。
「それとも…………」
ふと、目の前の影が大きくなったかと思えば、秋の風が通り抜けるように御簾がめくれあがる。
それはごく自然で、私が息をするのを忘れるくらい。
「僕が勝手に尋ねてきたから、恥ずかしがっているのかな」
気づいた時にはもう、宮さまと私の間には隔たりである御簾も几帳もなかった。
ふわりと宮さまの香が薫って、美しいその姿を私と目線が会うように腰を屈めさせた。
「………っ」
「一度顔を見ているのだから、御簾なんていらないよ。そんなに驚いた顔をしないで」
「…うき…、むぐ…っ」
「しー。折角二人きりなんだから、誰も呼んじゃだめだよ」
宮さまの骨ばった手が、私の口を塞ぐ。
なんか……こんなこと、前にもなかった…?
まさに出会った時と同じ感覚。
やっぱり、要注意人物だったんだわ…っ。