ちい姫さまの恋事情
□朧太刀
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目が覚めたら、高い天井が見えた。
その木目の連なりは見覚えがあったから、私はゆっくりまばたきをして視線を泳がせる。
「わたくしは……」
「姫さま……っ!」
身を起こそうと体に力を入れたのに、まるで体が言うことをきかない。
それは今まで眠っていたのもあったのだろうけど、つり目の女性が私に覆い被さってきたからだ。
「え、え……っ?浮草…!?」
「あぁ姫さま、よくぞご無事で……っ!!」
顔と声に馴染みがありすぎて戸惑った。
それというのも、自分自身がいつの間にか邸に帰ってきていたから。
浮草を体に感じたことで、自分の部屋に寝ていたことをやっと理解したのだ。
……まだ、浮草とは別の、あの人の感触が残っている。
衛門督と名乗った青年。
衛門督が助けてくれなかったら、きっと今ごろ私は死んでいただろう。
そう思うと身震いするほど、昨夜の出来事は恐怖と不安に包まれていた。
親切にも、牛を引いて私を邸へ送り届けて。
名前も名乗らずに帰ってしまわれたのだろう。
「姫さま、姫さま……っ」
「う、浮草……。わたくしは大丈夫よ?ささら、ささらーっ」
いつもは皮肉屋の浮草が、私の事をこんなに心配してくれているなんて意外だった。
その重みに耐えかねて、ささらを呼ぶ。
「あ、姫さまお目覚めですか?」
振り分け髪の少女が人懐っこい笑みを浮かべて、几帳からひょっこり顔を出した。