ちい姫さまの恋事情
□有 明
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「じゃあ、お父さまと翔光くんにも宜しく伝えてね」
「はい、姉さま」
翔光…かけみつ、とは私の兄さまで、姉さまの弟にあたる。
たまにしか会えないけれど、少し姉さまと似ている兄さまは会うと凄いことになる。
…お察しの通り。
「あぁ…羽衣ちゃんぅ……」
本当に名残惜しいようで、姉さまはなかなか私の裾を離そうとしない。
それに気付いた松風が、やんわりと離してくれた。
「またご招待なさればよいことです。女御さま、本日は諦めなさいませ」
「分かってはいるのよ〜」
寂しげな姉をみていると、私が悪いことをしているように思えてきた。
それではいけない、と私は別の女房に御簾を上げるよう促す。廂まででると、姉さまに向かい、腰を下ろして頭を下げた。
「それでは姉さま、羽衣子は帰らせて頂きます」
「えぇ…また来てね、羽衣ちゃん」
「はい」
まるで後生の別れのような姉さまに苦笑しながら、私は松風を見た。
「ご先導致します」
松風が私のまえに出たので、それにならって歩き始めた。
後ろを振り向いたけれど、すでに御簾が下ろされていたため姉さまの姿は見えなかった。
私はふう、とため息をつく。
何というか、姉さまの溺愛ぶりは大変だ。