ちい姫さまの恋事情
□有 明
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あれから私は姉さまと一緒に遊んだ。
碁や双六、懐かしい雛遊びまで。
そうしていたらあっと言う間に時間になっていた。
「羽衣子姫さま、そろそろご退出の時間にございますれば」
「だめよっ」
私たちが遊んでいた後ろから、控えめに松風が時間を告げた。
すぐに反応したのは姉さまで、叫びながら私を抱きしめる。
「嫌よ、羽衣ちゃん!帰ってはいや!ね、残ってくれるでしょう…?」
「姉さま……」
「ね、お願い…っ」
猫なで声の姉さまは、身を屈め、上目遣いでお願いしてきた。
どうしても、という気持ちは分かるけれど、お父さまの言いつけは守らなくてはならない。
あまり遅く帰って心配させてもいけないし…。
「姉さま、わたくしは帰らなくてはいけないんです」
「そんな…っ、羽衣ちゃんっ」
「いい加減にしてくださいまし、女御さま」
さらに抱きつこうとした姉を、松風が引き剥がしてくれた。
きっ、と姉さまが松風を睨む。
「良いではないの。わたくしの可愛い妹姫を引き止めるくらい」
「畏れながら。羽衣子姫さまにも守らねばならぬこともございますゆえ、女御さまの一存でお引き留めなさっては、羽衣子姫さまがお困りになられましょう。ご身分ゆえの体裁をお忘れなきよう」
「ごめんなさい、姉さま。またいつでも遊びにきますから」
「本当?約束よ、羽衣ちゃん!」
松風が止めなかったら、ずっと姉さまに抱きしめられたままだっただろう。
そこはこの出来た女房に感謝した。
わがままな姉さまも松風の言うことはおとなしくきいているみたいだし。