ちい姫さまの恋事情
□参 内
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「では姫さま、お気をつけて行ってらっしゃいまし」
「お土産話、楽しみにしていますね」
浮草とささら、他の女房らに見送られて、私は牛車に乗り込んだ。
招待された身としては自分の女房はつれていけないため、身ひとつで参内しないといけない。
実際そうなると、少々の不安が過ぎった。
がらがらと牛車は走り出す。
牛飼い童の元気な声が外から聞こえた。
牛車の中には、姉さまからの使者であろう女房が一人座っている。
十八の浮草より年嵩で大人っぽい。落ち着きを身にまとって、さすが後宮に出仕しているだけはあると思わせる気品があった。
そんな彼女と目が合ったので、急なことに私は肩を弾ませた。
相手はゆっくりと頭を下げる。
「申し遅れました。お初にお目にかかります、わたくし登華殿の女御さまにお仕えしております松風(まつかぜ)と申します」
「は、初めまして、宜しくお願いします」
「今回わたくしが羽衣子姫さまを先導致しますゆえ、どうかお気をゆるめて、ご安心下さいまし」
「…ありがとう、松風」
私が緊張しているのを見抜かれていたようだ。
松風の気遣い溢れる対応に、少しだけ緊張が解れて楽になった。