ちい姫さまの恋事情
□ちい姫
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私の名前は藤原羽衣子(ふじわらのういこ)。
父である一条大納言の二の姫で、つい先日裳着を済ませたばかり。
数えで十四になる。
兄弟は一年前に入内した姉と、右兵衛佐の兄がいて、今溺愛されているのが私。
それも姉が今上帝に入内したから。
姉は翠子(すいこ)と言って、今の帝の寵妃。
それまで姉が大好きだったお父さまの愛情が、私に向いたというわけだ。
「姉さまはお元気そうですね。安心しました」
「そなたは翠子が好きだな」
「お父様に言われる筋合いはございませんわ」
「そうかそうか」
父は頭を掻くように笑い、扇を仰いだ。
その風でぱたぱた、と御簾も仰がれる。
「後宮とはどのような場所なのかしら…。わたくしでも入れるの?」
「お父さまは羽衣子まで主上に差し上げるつもりはないぞ」
「わたくしは姉さまを悲しませることはしたくありません。お父さまったら」
「だからそんなつもりはないと言うに。羽衣子は冗談も分からぬちい姫だな」
背が小さいのは分かるけれど、いつまでもちい姫呼ばわりされるのは嫌。
ちい姫なんて、赤子が呼ばれるものなのよ?
私ってまだ、お父さまにとってはちい姫なのかしら。