ちい姫さまの恋事情
□ちい姫
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「うい、うい、羽衣子。羽衣子や」
初老の男性の陽気な声が、御簾の中にいる私を呼んだ。
「お父さま!」
「おお羽衣子。今日も我が姫は可愛いの」
お父さまは機嫌よく、御簾越しに私の前に座った。
私も慌ててそれに向き合う。
「お父さま、そのようにご機嫌で、どうなさいましたの?」
「あぁ、登華殿の女御さまから、そなたが遊びに来るのを歓迎して下さる文が届いた。そなた、行きたがっていただろう?」
「姉さまがお許しに?」
「いつでも参内なさいと仰せだ。明日にでも参内して、私にも翠子の様子を教えておくれ」
「喜んで行かせていただきます!」
かねてからの願いであったため、私に否定する言葉は持ち合わせていなかった。
お父さまも嬉しそうに笑う。
「翠子が入内してから寂しそうにしていからの、そなたの喜ぶ顔が見れて良かった」
「御簾越しでもお見えになるの?」
「どうしてこんなに早く裳着をすませてしまったのかと悔やまれるのだよ」
「お父さまったら」
裳着を済ますと女性は成人とみなされるため、実の親であっても男に顔は見せられない。
私を溺愛しているお父さまが悔しそうなのが、御簾越しでも目に見えて分かった。