其れ華番外編集

□意地悪な、あなた
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「ほー、俺は二の次か」


振り向いた先には直衣を身にまとった長身の男。
わたくしの夫の源穂高です。
相変わらず登場する時に気配がありませんわ。


夫はわたくしを一瞥すると、格式ばって茴香さまの前で一度平伏をしました。


「茴香姫、御前を失礼致しました」


「いいえ、大丈夫です」


茴香さまはいつまでたっても穂高殿と丁寧にお話なさいます。
薫さまの時の名残らしく、なかなか直らないのですって。


「お加減は如何ですか」


「添木と同じことを訊くのですね。まぁ添木からは日に何回も訊かれるのだけれど」


「その様子だと順調なようですね」


「えぇ。…主上は?」


いつも一緒にくる主上がいないことに気付いた茴香さまは首を傾げました。
穂高殿は薄く笑みを返します。


「主上はもうすぐいらっしゃいます。その前に添木を預からせて頂きますね」


そう言った穂高殿は立ち上がってわたくしの肩を抱き寄せ、半ば連行するように引きずりました。


「茴香さま、」


「仲睦まじくて結構よ、添木」


茴香さまはにこりと笑ってわたくしたちを送り出して下さいました。
わたくしの助けを求める声も聞かず。


そのまま穂高殿はわたくしをわたくしの局へと連れてゆかれました。






「人が忙しい合間を縫って会いにきているというのに、なんという仕打ちなのだろうな?」


茵の上に腰を下ろした穂高殿は、わたくしをそばに置いて笑いました。
第一、それは表情だけでしたが。

わたくしは負けじと言い訳を考えます。


「顔は毎日あわせているではありませんか」


「では、時間を作る必要はないと?」


低音をきかせた声音で問いつめられたら、もう反論できません。
この方はそれを分かっているのです。


穂高殿は今をときめく蔵人所に出仕しています。主上の信頼も厚いのでいずれは蔵人の頭になり、もしかしたら近衛の中将も兼任するかもしれない方。
そんなお方が、わたくしの夫です。


「添木は俺と会いたくなかったか」


「そんな…っ」


「俺が嫌いだから、そんな風に避けるのだろう?」


「避けてなどいませんわ…っ」


でましたわ、この方の趣味。
わたくしいじめ。


わたくしをことあるごとにいじめては愉快そうに楽しんでいらっしゃるのですわ。


わたくしをいじめて困らせて、本当に何が楽しいのか全くもって理解不能なのです。



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