其れ華番外編集
□そばにいて。
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夜。
例によって夜鷹が来ていた。
御帳台の中に籠もり、茴香のしなやかな体を腕の中へとおさめる。
茴香が入内してから幾日もたっていないからか、彼はここへ来る度に彼女の存在を確かめるようにそれを怠ろうとはしなかった。
また、離れてしまうという恐怖心からなのだろうか。
「主上、本来ならばこちらが主上のもとへ伺うべきなのをご存知でいらっしゃいますか?」
茴香は諭すように主上に問いかける。
その主上は、茴香を離すまいとして抱き寄せたままだ。
「俺が来た方が手間がかからない。それに茴香には待っていて貰う方が我慢できる」
茴香が来るのを待つのがもどかしい、と主上は言ったが茴香は呆れてしまう。
こうやって夜鷹がいるのは幸せな時間だが、その所為で大事な政が疎かになってしまうのはいけないことだ。
「主上…それはよいのですが、政の場を抜け出して来るのは…おやめください」
茴香は夜鷹の胸を押し、首を横に振る。
抱きしめて貰うのは嬉しい。
別れを覚悟していたのだから、未だに信じられないこと。
だから。
「しかし…お前は俺といたくないのか?」
「そんな……ずっと、傍にいたいです」
「なら」
「でも、主上には帝という立場を大事にして頂きたいのです」
もし。
自分という存在の所為で、彼が帝を退位してしまい彼と離れてしまうことになったら。
考えたくもない。
すべては自分のため。
「俺は、一時でもお前と離れたくないんだ。傍にいないと、お前がどこかにいってしまいそうで怖いんだ」
夜鷹の顔が悲痛に歪み、茴香はその顔を不安げに覗き込む。
不謹慎にも、自分が彼の弱いところだと認識してしまって。
愛されているのだと、幸せを感じてしまう。
「わたくしはもう、あなたから離れようとは思いません。わたくしこそ、あなたと離れたくはないのですから」
夜鷹の顔を両手で包み込み、茴香は笑うように見上げた。
「茴香…」
「ですが、あなたがご自分の立場を弁えないのであれば、それも覚悟致します」
その言葉に一気に青ざめた夜鷹は、駄目だ、と声を張り上げる。
「駄目だ駄目だ絶対にダメだ!分かった、お前が離れていくぐらいならちゃんとするから!」
「穂高殿にも手を焼かせてはいけませんよ…?」
「あ、あぁ。分かった、分かったから。前言撤回してくれ」
夜鷹のあまりの必死さに、茴香はくすくすと笑ってしまった。
まるで言うことのきかない子どもを相手しているようだ。