其れ華番外編集
□きらきらの恋
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「茴香の君が入内なさったそうですね」
「…あぁ、そうだな」
「おめでとう、ございます」
心はそう思っていないのに、口から出任せが出た。
主上はきっと幸せそうなお顔をしてる。けれどそれはわたくしではなく、茴香の君がいるおかげ。
そう思うと、言葉が勝手に出てしまう。
「主上…今宵は、こちらでお過ごしになりますか?」
「……きら、」
「主上」
わたくしは主上の否定する声を聞きたくなくて、それを制した。
本当に身勝手な女。…えぇ、わたくしのことよ。
それは充分に分かっているの。
だから、今宵はいてほしい。あなたに、いてほしい…。
「主上…、お願いです。わたくしを抱いて……」
泣くものですか。
あなたの前では、あなたが好きなわがままな姫でいたいの。
まだ、大人の振る舞いをしない稚い姫で。
「吉良、それは」
「わたくし、知っていましてよ。少将さまが茴香の君だったこと…。
知らずに、あの方を信用してしまった…」
「吉良」
「あの方は、ずっとあなたのお側にいましたのよ。わたくしだって、あなたのお側にいました…」
何も知らずに、入内したあの時から。
幼心にも、東宮さまを愛そうと必死になって。
気がついたら、わたくしだけ空回りしていた…。
「なのに今更になって、茴香の君が現れるなんて。そんなの、ずるい…っ!わたくしだって、わたくしだって…っ」
「吉良姫、落ち着け」
「わたくしだって、ずっとあなたをお慕いしておりましたのに…っ!」
あぁ、なんて醜いの。
こんなわたくし、主上を困らせてしまうだけなのに。
「……すまない、吉良姫。俺は、お前を抱けない」
「主上…っ」
「俺を本当に好きでいてくれる吉良姫を、気持ちがないのに抱けるはずがない」
そう言った主上は、わたくしをちゃんと向き合わせた。
なんて辛そうなお顔をするのだろう。
ずっと、わたくしのことなんかどうでも良いと思っていたのではないの?
「お前には、辛い思いをさせた。俺も、お前を愛そうと努力した。…けど、駄目だった。俺は、茴香しか愛せない」
「…ふっ、ぅ」
主上の言葉を聞いたら、何かが切れたように溢れてきた。
主上はわたくしを愛そうとして下さっていた。
けれど愛せない。
きっと、どこかでこの言葉を待っていた。