其れ華番外編集

□薫る華と夜の鷹
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てこてこと走り出して、簀子から階を降りた。


沓も履かずに雪の上に出たのは初めてだったから、あまりの冷たさにはっと気付く。



「あ、すまない……」


俺は振り向き、慌てて階の上に戻る。



薫は、顔を上気させて息を弾ませているがどこか嬉しそうにしていた。


「冷たくないか?」


「ううん、大丈夫」


何のへりくだりもなく笑う薫は、首を横に振った。

俺と薫は中から幾重にも衣を重ねているので、身体的には寒くなかった。



俺は薫を座らせ、自分も座る。


するとまじまじと薫の顔を見る事ができ、あの姫君を思い出した。



「…お前、茴香と言う名の姫を知らないか」


俺は何も考えていなかったが、台詞が口を突いて出た。


薫は暫く黙っていたが「いないよ」とだけ小さく答えた。



雪は降っていないが、積もっている。
夕暮れ時の日差しに輝いてきらきらしていた。



「何故あそぼうと言ったんだ?」



「……東宮さま、つまんなそうだったから。ぼくが楽しくしてあげたいなって思ったから」



ただ、その一存で東宮を連れだそうとした、と。


普通の童からは考えられない行動を起こすのだな、と俺は思った。



「たまには常識外れも良いものだな」



意外に自分も常識人だったのか。

薫が起こした行動は常識からは考えられないが(帝の御前もあって)、俺は結構好きだ。


「東宮さまが楽しそうで良かった」


「あぁ。お前のおかげで楽しい。ありがとう」



お礼を言うと、薫は嬉しそうにうん、と頷いた。






これは、俺が薫と初めて出会った時の出来事。


後に薫は元服、出世し、俺の親友になった。

今や彼も常識人に思われがちだが、俺は知っている。



あいつは人の心に敏感で、心情を察する事が出来るのだ。

それ故にたまに大胆な行動を起こす。




俺は、そんな薫が結構好きだ。












あいつが、もっと大胆かつ大それた奴だとは知らずに。




終。








いっ、如何だったでしょうか?
薫が茴香の時より幼い感じもしますが(汗)

其れ華、いつも楽しみにして下さりありがとうございます!
更新は遅いですけれど、頑張ります。


拍手ありがとうございました!




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