其れ華番外編集
□梦に舞う胡蝶の如し
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参議の仕事が一段落した國満は、定刻寸前まで笛の練習をするために大歌所にいた。
屋敷でも練習はしているが、大歌所の方が気も引き締まり、音がよくなる。
だから國満は、なるべくここで練習するようにしているのだ。
黙々と笛を吹いていた國満は、顔見知りの役人がそろりとやってきたのが見えたので、一度笛から唇を離した。
「國満殿。お客人がお見えです。」
「客人…ですか。」
はて、誰かと約束をしていただろうか…
「はい。右大臣家の、近衛少将様です。」
「近衛少将殿が…」
何故自分のもとに薫が来るのかよくわからなかったが、待たせても悪いので、國満は通すように伝えた。
すると役人と入れ替わりに、美しい顔立ちの少年が入ってきた。
噂どおりの美しさに僅かに驚いた國満だったが、なるべくそれがわからないように表情に隠した。
「練習中に申し訳ありません。お初にお目文字仕ります。大江薫と申します。」
綺麗な所作で一礼をする少年に感服しながら、國満は顔を上げるように促した。
「こちらこそ、お初にお目文字仕ります。瀬名國満と申します。」
相手が気に病まない程度の礼をし、國満はにこやかに薫を見た。
「薫殿。本日はどうなされたのですか。」
「はい。実は國満様宛に、若宮様より文をお預かりしておりまして、それをお届けにあがりました。」
薫は、自分が運んできた文箱をそっと國満に差し出した。
若宮といえば、今上の弟君であらせられる東宮様のこと。
その東宮様から直々の文とは、いったいなんなのだろうか。
珍しく緊張しながら、國満はゆっくり文箱を受け取り蓋を開け、文を開いた。
その姿を見つめながら、薫は昨夜のことを思い出していた。