其れ華番外編集
□薫る華と夜の鷹
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あれは確か、俺が東宮になって初めての年明けの日だった。
俺の歳はまだ十一。元服して間もない頃だ。
俺は新年の挨拶に来る貴族達に囲まれて宴やら舞をみるよりも、外で遊んでいる方が楽しかった。
無論、この日も雪が降っているのにも関わらず外に出たくてしょうがなかった。
だが兄上が帝に即位して初めての年だったし、大人しくしていなさいとの父上の仰せで諦めていた。
日が傾き始めた夕刻時、右大臣大江義能は俺と兄上の元を訪れた。
「新年、お喜び申し上げます」
深々と頭を下げる貴族は見飽きていた俺はふと、大江の隣に座っていた子どもに気付く。
まだ髻もとれていないようで、長い髪を結って肩に流している少年は、まるで小さな姫のような幼い顔立ちをしていた。
俺の視線に気付いた少年が、此方を振り向いたとき。
あの瞳に、出会ったんだ。
大きな瞳に長い睫。
姫のような少年。
薫だった。
にこりと笑う少年を見て、俺は首を傾げた。
すると彼も同じ様に首を傾げ、俺の真似をする。
俺がまた反対に首を傾げると、彼もまた同じようにした。
「ふ、ははっ」
「ふふふ」
お互いそんな様がおかしくて、つい笑い出してしまう。
「仲良くなったようだね」
その様子を見た帝―兄上は、御簾の内から声を出す。
兄上はその時はまだ十五歳だっだ。
「私の息子、薫にございます。東宮さま」
「はじめまして、薫ともうします」
「東宮さまとは一つ下の十にございます」
大江は薫を前に出させて、挨拶をさせた。
なかなか可愛らしい子だね、と兄上は薫を誉めて俺を見た。
う、うん、と俺は頷く。
「東宮さま、あそぼう?」
すっと、薫は立って俺の前に手を出した。
「これ、薫!東宮さま、息子のご無礼お許し下さいませ」
大江は血相を変えて薫共々頭を下げる。
俺はそんな大人大嫌いだったから(媚売ってるの丸分かりだし)薫の手を取り、大人の中をすり抜ける様に走り出した。
遠くから「申し訳ございません」と大江の謝る声が聞こえたけれど。