其れ華番外編集
□意地悪な、あなた
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わたくしは今日も茴香さまに侍らせて頂いております。
「茴香さま、お加減は如何ですか」
「おかげさまで、元気よ」
先日、おめでたいことに藤壺の女御…茴香さまがご懐妊あそばされました。
近頃茴香さまはあまり食べ物も食べず、ずっとご気分が優れないと仰っていたのでわたくしは気が気ではございませんでした。
初めは遠慮していた茴香さまがとうとう薬師を呼んで、ご懐妊が分かったのでございます。
「くれぐれもお腹を冷やさぬようお願い致しますわ」
わたくしはそう言うと茴香さまの袿をもう一枚取り出して茴香さまの肩にかけました。
季節は秋。そろそろ紅葉も枯れる頃なので、風が日々冷たくなってきているのが分かります。
「茴香さまがお風邪でも召されたらわたくしが主上に叱られてしまうのですよ」
「主上も添木も過保護なのよ。少しくらい免疫もつけなくちゃいけないわ」
「なりません。今は一番大事な時期なのですからね。つわりもまだあり不安定なのですから」
わたくしが厳しく口すっぱく言うと、茴香さまは困ったような、嬉しいような笑みをこぼしました。
そうして自らのお腹に優しく触れます。
「不思議ね。まだ膨らんでもないのにこの中に皇子がいるなんて…考えられない」
その瞳はいつものように奥深く、澄んでいました。
母となる人の、強い眼差し。
今は亡き右大臣家の北の方さまを思い出します。
わたくしも気付いたのですが、大臣さまの仰るとおり茴香さまは日増しに北の方さまに似てきておられます。
一輪の花が、ゆっくりと咲くように。
「その中におられるのですよ。その証拠につわりがございましょう」
「えぇ。でも、苦しいけど辛くないの。…嬉しいの」
「早くお会いしとうございますわね。でも無理は禁物ですからね」
「分かっているわ、添木。もう」
何度も聞かされた言葉だからでしょうか。茴香さまは眉根に皺を寄せました。
わたくしは茴香さまに睨まれても怖くありませんわ。
「あ、添木。もう時間じゃないの?」
「まぁ、忘れていましたわ」
「添木ったら。わざわざ穂高殿が会いにきてくれるのに」
「姫さま。わたくしは姫さま第一なのです。男なんて二の次ですわ」
「それ、後ろの人に言ってみたら?」
茴香さまがわたくしの後ろを見ていうので、わたくしはまさかと思いつつ後ろに振り向いてしまいました。