其れ華番外編集

□梦に舞う胡蝶の如し
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定刻が近くなり、音が少しずつ止みだした大歌所で、きらびやかな音がまっすぐに響いていた。

芯があり美しいその音色に、練習を終えた大歌所の役人たちは感嘆の声をあげるのだった。

「さすがですなぁ…」
「いや、まったくですなぁ…」

憧れと尊敬を交えた声色が、様々なところから聞こえていた。

そんな中を、一人の少年が大内裏から歩いてきた。

少年は一見女性と見紛るほど美しい顔立ちで、同い年の少年たちに比べれば、かなり華奢だった。
この少年は、その美しい顔立ちと、東宮様が唯一お召しになられる方だということで、大内裏ではなかなかに有名であった。

「これはこれは、近衛少将殿」

呼ばれたことに気がついた少年・薫は、にこりと柔らかく微笑み一礼をした。

「大歌所へおいでになるとは、珍しいですなぁ。」

役人たちのもっともな言葉に僅かに苦笑しながら、薫は返事をした。

「こちらに瀬名様がいらっしゃると伺いましたので、お邪魔させていただきました。」

「あぁ、國満殿ですか。こちらで練習をなさっていますよ。ご案内いたしましょうか。」

「お手数をおかけしてすみません。ご迷惑でなければ、お願い致します。」

丁寧な物腰の薫に好印象を抱いたらしい役人たちは、上機嫌で國満のもとへと案内し始めた。

その後に続きながら、薫は近づいてくるまっすぐで美しい笛の音を気持ちよさそうに聴いていた。





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