ちい姫さまの恋事情
□鬼灯道
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キィン、と金物音が辺りに響き渡る。
「…へっ。捕まえてみろと言いたがったが、なかなかやるじゃねーか」
「それはどうも」
「そんなぼろっちぃのででよく受け止められたな」
ギリギリと力が籠められている二人の太刀。
道楽の立派なものに対して、青年のものは刃先がぼろぼろと欠けていて、歪な形をしていた。
とても刃物とは思えない。
「まぁいい。今日は俺の方が分が悪そうだ。悪いがお暇させてくれ」
重なり合う刃先が離れると、道楽は腰に穿いていた鞘に納めて私を振り返る。
びく、と肩を震わせた私に向かって「またなお姫さん」と言うと、彼は牛車を飛び降り、瞬きする間に見えなくなってしまった。
「姫君、ご無事ですか…?」
古太刀を納めた青年…衛門督が牛車に乗り込んで、私の顔を覗き込んだ。
私は今し方起きたことが現実かどうか混乱していたので心ここにあらずだった。
体の芯からくる震えが止まらない。
牛車が襲われて、供は逃げて、付き添いの女房は失神して。
私ひとりであの男と対峙していたのだ。
切れ味のよい刃の冷たさが、まだ喉元に残っている。
この身が、ここにあることが奇跡だと思った。