ちい姫さまの恋事情
□鬼灯道
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「お姫さん、自分の立場は分かっているのか?」
「分かって…いるわよ。凄く、怖いわよ。でも……盗賊の好きにされては貴族の姫が廃るわ」
「肝がすわってるな。普通の姫なら俺を見ただけでこいつみたいに気絶するぜ」
「お生憎さま。わたくしは姫にも見られない姫ですから、普通の姫じゃないのよ」
膝に置いている手が、震える。
口だけは達者なのも分かっている。
今すぐにでもその太刀が喉を掻き切ってしまうかもしれないと思うと、震えが止まらなかった。
死ぬのは怖い。
でも、屈したくない。
「お姫さ」
「おい、そこの男」
道楽の背後から、別の青年の声が聞こえた。
先ほどの少年の声ではなく、夜の静寂によく通る声だ。
「チィっ。検非違使か」
道楽が私の前から太刀を離す。その切っ先は後ろに向いて、青年を捉えた。
途端、力が抜けた私は長い息を吐いた。
助かるかもしれない。
「検非違使?違う。私は衛門府の衛門督(えもんのかみ)だ。そなたは私が見たところ、近頃京を脅かしているという盗賊に見えたが?」
「ご名答だ、衛門督さんよ」
「そちらにおわすは姫君と見受けられる。すぐに捕まえてやろうか」
青年は向けられた太刀に物怖じするどころか、構える素振りも見せない。
するといきなり道楽が太刀を振りかざした。