ちい姫さまの恋事情
□鬼灯道
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「さぁお姫さん。どうされたい?」
低い声とともに、黒光りする鋭い太刀が私の目の前に翳された。
ひっ、と声をあげたのは隣にいる女房だ。
「どこの姫か名乗れ。これに切られたくなければな」
「わ、わたくしもうだめ………」
彼女は太刀の恐怖に負け、気を失ってしまった。
私を盗賊と対峙させたまま気絶するなんてずるいわ。
私も本当は気絶しそうなくらい怖いのに。
声が喉奥にへばりついて出てこない。
雲から逃れた月の灯りが物見から入り、鋭い刃先を照らし出す。
「わ…わたくしの身元を知って、どうするのよ…?」
「あ?金目のもん頂くに決まってんだろ」
「や…やめて…!!うちにこないで…っ」
「お姫さん、俺がそのままお姫さんの邸に盗みに行くと思うか?んなわけねぇだろ」
研磨された太刀が喉元にあたる。
それはひんやりとしていた。
「お姫さんをダシにするのさ。もちろん、今日は帰すわけにはいかないがな」
つまり人質ってこと……?
用済みになると最悪、殺されるんだわ。
それならなおさら、言うわけないじゃない。
「……いわ」
「ん?」
「絶対、言うものですか」
私は顔を上げて、前を見据えた。
その拍子に喉元がひりひりしたから、きっと少し切れたのかもしれない。
けど引き下がれなかった。