ちい姫さまの恋事情
□鬼灯道
5ページ/10ページ
「あ、あなた方は何者ですか…っ!!」
私の手を強く握って、勇気を出した女房が震えながら男に言った。
男はにや、と笑ってその体格には狭いであろう牛車の中に乗り込む。
反射的に後ずさる私たち。
「何者に見えるか?そんじょそこらの貴族かなんかに見えたらその目を疑うぜ」
「み、見えるものですかっ!今すぐここから降りなさい、姫さまの御前から、今すぐ!!」
「あ?お前がお姫さんじゃなくてこっちのちびがお姫さん?」
「ち、ちび……!!姫さまになんてもの言いを…っ!」
男の視線が私に向けられ、なるほどと頷いた。
着ている装束の質の高さから納得したのだろう。
それにしても、こんな輩にまで私は姫と見られないなんて…!!
恐怖か呆れからか声が出せないでいる私は、ただ男を見ることしか出来ない。
男はその手に抜き身の太刀を持っている。
先ほど半分にすっぱりと切られた簾を見ると、その切れ味の良さが嫌でも分かった。
だから下手に逆らえない。
「そうか、こっちがお姫さんか。すまないなぁ。お詫びに俺の名を教えよう」
またずい、と詰め寄るから背中に堅い物があたる。
もう後ずされない。
「覚えておけ、俺は今をときめく京の大盗賊"鬼灯道"の頭。道楽(どうらく)さまだ!」