短篇
□夢のない話
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「勝真、このような時刻にどこへ行くのだ?」
夜の辻を歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。
「――お前か。……そっちこそどうした?紫の館を警護してる筈だろ」
振り替えれば、そこには蒼い髪の見慣れた源氏の武士。
本来であれば、互いに敵対する立場にあるのだが、今は八葉の名の下に、京に巣食う鬼を倒すという共通の目的を掲げている。
「何を言っているんだ?そのお屋敷の前を通っているのはお前だぞ」
「はぁ!?」
生真面目な片割れに指摘されて辺りを見回してみると…、確かにここは通い慣れた辻だった。
「……どうして、こっちに来たんだ?」
そういえば、家を出てからの記憶がない。
そもそも、何故自分はこんな時間に外出など考えたのか?
「大丈夫か?…まさか、酔っているのではないだろうな?」
諫めるような口調と共に、眉間には皺を寄せられ、勝真を見る視線には非難が混じっていた。
「俺が酔うかよ。そもそも、今日はまだ酒飲んでねぇし」
そう弁解はしてみるものの、信用がないのか、彼はまだ疑っている様子。
「頼忠…ほら、確かめてみろよ」
苦笑しながら相手の顎を捕えると、勝真は素早く唇を重ねた。
「んっ…!はぁ……ぅ……!!」
掠めるだけだった筈のキスが、つい濃厚なものになってしまう。
「な?酒なんて味、しなかっただろ?」
「…………あぁ」
口付けした事にはあえて触れないまま頼忠へと確認を取れば、彼は戸惑いながらも相槌を打った。
「さて、目も覚めたし。帰るか」
踵を返し、数歩足を進めたところである事を思いつく。
振り返り、頼忠を見て…。
「好きだぜ」
相手の答えは待たず、勝真は歩きだした。
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