感謝小説
□従愛
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必死に目を背けていた。
恋にならぬように、
愛に変わらぬように、
なのに情は
理性を壊し、
本能を解き放つ。
抑えきれなかった己を嘲笑うかのように。
.†..†..従愛..†
主君である景虎を喪った後、直江は宿体の実家である橘の家に戻るつもりはなかった。
闇戦国の戦況が激化した辺りから、もう今生での縁者とは関わらない方がいいと思っていたし、そもそも換生者という生き物として、普通の人間と関わってはいけないと感じていたからだ。
──だが、縁というものは、誰にでも平等に結ばれるらしい。
広大な都心の中の、競うようにビルが連立するオフィス街の一角で、2人は偶然にも再会を果たしてしまった。
「……義明か?」
黄昏時本来の情景も失った都会で、ビルの谷間は早々に闇を作り出す。
まるで、いる筈のない人間を間近で見たような反応に、直江は一瞬戸惑って結局苦笑した。
「──お久しぶりです、兄さん」
もしも、今目の前にいるのが父か母であったならば、巧い理由をつけて他人だと装ったかも知れない。
だが、相手は“義明”として一番世話になったあの兄だった。
それ故に、逃げるなんて選択肢は最初から存在しないのだ。
「生きていたんだな」
「…ずっと、連絡一つ出来なくて、すみませんでした」
互いに交わした声音は耳に馴染み、実際に触れる事が叶う距離は、再会を夢ではないと証明する。
数年前よりも若干痩せたように見える弟の顔に、照弘はそっと触れようとして…軽く肩を叩くだけに留めた。
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