題目

□いつもと違う表情
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浅く繰り返される吐息と、水分を含んだ淫猥な音が、飾り気のない部屋の空気に溶け込む。

――その時、サイドテーブルの上に置かれたケータイが鳴った。


「……アナタ、高階に携帯番号教えたの?」



""""いつもと違う表情""""



身体中を這い回る手を止める事はせず、バイブレーションが鳴る恋人の携帯を横目で見れば、液晶には『高階寛人』の文字。

ふと零した疑問に、真下にいる恋人が気付いて瞳を開けた。


「っ、……ぇ?…なに」

彼は色んな表情を見せてくれて、擦れた声も色っぽいと思えたが、今はそれよりも重大な問題があった。


「電話きてる。二年の高階から。――アナタたち、いつからそんな親密な仲になってるの」

一度強姦未遂を起こした後輩とのアドレス交換に、普段は穏和な二見も眉をひそめる。


自分の可愛い恋人は、一体どこまで人がいいのだろう…。


「――あー、勝手に見られたんだよ。まぁ別に番号見るだけならいーかな…って」

身の回りのセキュリティに無頓着すぎる雅都を本気で案じつつ、二見は未だ鳴り続ける携帯電話を手に取った。


『あ、先輩?やっと出てくれましたね。…もしかして、忙しかったですか?』

無機質な機械の向こうから聞こえてきた声は、相変わらず椎名を慕うらしい高階のもの。


――相手の性格を熟知した上での多少の強引さも、変わらず健在だった。


「んー?それなりにね」

上半身を起こし、平然と答える二見に驚いたのは、目の前にいる椎名だけではない。


『!その声……』

思いも寄らない男が電話口へ出た事に、高階も驚いて声質を変えたようだ。

――それに応じるが如く、二見を取り囲む空気が、心なしか性質を変える。


「悪いけど今取り込み中なのよ。意味、わかるでしょ」


『……………っ!』

詳細は述べないまでも、聡い後輩は理解したらしい。電波の向こう側で沈黙している様子が、考えるまでもなく伝わってきた。

…こちらの用は終わり。とばかりに じゃあね、と言って二見は携帯を放り投げる。


「……っ、嫉妬か?らしくねぇな」

段々理性を取り戻してきた椎名は、珍しく他人に顔色を変える恋人を、マジマジと見上げた。

繋がったままの下半身は、意識するだけでも恥ずかしいが、今重要なのは二見の気持ちである。


「いつ俺が放任主義って言ったっけ?雅都。アナタは一生、俺のモノだから」


はっきりと言葉を交わし、深く唇を重ねる。



……覆い被さるようにして椎名に重みを与えつつ、二見は静かに“通話”ごと携帯の電源を落とした。




――奪えるなら、奪ってみろ。




Fin...

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