SSサンプル部屋

□バラン×ユーミ(時間軸4の後)
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「私を知ってくれているのは……
あなただけになってしまったわ……」
「ユーミ殿……!」
意を決するバラン。
「こんなことを言っては、きっと……。
このバラン。師匠に弟子入りした当初より、
ユーミ殿を見初め、……今日に至る……、
そう申し上げても、間違いはありませんぞ。」
「!
バラン。なにも、そんな、気を遣わなくていいのよ……。」
「………………」
不満げなバラン。
「ユーミ殿……。
それは少々、ひどいのではありませんか。
私の心からの告白を、そんなふうにあしらっては……」
「バ……」
驚くユーミ。
「本当に……?
ごめんなさい。私……。本当に、知らなくて……」
「それは……無理もないでしょう。
いま、はじめて言ったのですからな……。」
「…………」
真剣な顔のユーミ。
「いまは、どうなの。」
「は……」
「私に思いを寄せてくれていたというのは、昔の話でしょう。
いまのあなたは、私をどう思っているの。」
「そ……っ」
「やっぱり……。過ぎたことだものね。
若い時ほどの気持ちが、いつまでも残っているはずなんて……」
「ま。待ってくだされ。ユーミ殿!
バランの炎はむろん、いまもなお……、
燃え続けております……!
忘れた思いならば、いまさらアナタに告げるなど、
イミのないことはいたしませんぞ!」
「…………!」
「ユーミ殿。この際、バラン一生の願いを、
どうか、言わせてくだされ。
今宵、一夜の情けを……かけてはいただけまいか……!」
思い切って、告げた。
バランにとって、一世一代の大勝負だ。
「………………」
ユーミはかすかに眉をひそめる。合点がいかない顔だ。
「バラン……。
それは、どういう意味?
どうして、一夜限りなの……?」
「………………」
「昔も好きだったと……、いまでも好いてくれてると言って、
それでどうして、一夜限りなの……?
あなたは、思い出を残したいだけ……?」
「ユーミ殿!!」

「わ。私は、ずっと、ユーミ殿ひとすじでしたので。
それゆえ、他のだれにも、女性には触れたことなどなく……!」
「誰とも……。本当に……?」
コクン
「じゃあ……。私が、先輩ね。」




師匠の娘さんは、気高く、ときに可憐で
満場の観客を魅了した

その手に触れるだけでも、
どれ程緊張したことか……

気の遠くなる程の緊張と葛藤と……


舞台の上では仲間であり、
我々は恋人を演じた

しかし
ひとたび舞台を降り、衣装を脱げば、
中身は相棒の妻だった……

どうすれば、心がゆがまずにいられたというのか

そんな方法を知っていたならば、
あんなにも苦しまずにすんだことだろう




ユーミの手の甲にキスするバラン。
「…………。
今までで、いちばん……、ドキドキしたわ。」
(ジーン……)



《暗転》




「バラン……。大丈夫? こっちを向いて。」
「…………。」
「もしかして、なにか……ガッカリした?」
「いえ! そのような! めっそうも!」
「じゃあ……、どうしたの?
言いたいことがあるなら、正直に言って。」
「本当に……このバランで、よかったのですかな……?」
「どうして?」
「ほかに、気になるお相手は、いなかったのですかな……
たとえば……
みぬき嬢の……パパ上など……と……」
「成歩堂さん?? 考えたこともなかったわ。
だいたい私、あのかたのこと、よく知らないもの!
好きになるわけがないじゃないの。」
「ほ、本当ですかな、その言葉!」
「それに……
子供がお世話になってるかたを、悪く言うつもりじゃないのよ。
ピアニスト……だと聞いているけれど、
あまり、技量を磨いてはいないと、
ご自分でおっしゃってるし……。
やっぱり私、芸に邁進するところがあるかたでないと、
心を傾けることはないわ。」

「ピアノならば、不肖バラン、多少覚えがありますぞー!!」
「……いえ。べつに、ピアノの上手な男性がタイプだとは、
一言も……」

「やはり、同業者でないと、ユーミ殿の恋のお相手には
なれないということですかな。
ふふふ……。バラン、光栄の至り。」
「絶対に、ということではないけど、
自分と同じ世界にいるかたのほうが、会話が楽だし……」
「そんな、ちょっとドキッとすることを、
言わないでもらえますかな!」
「元は、あなたがヘンなことを言うからよ!
みぬきの今のお父さんだなんて……。
だいたい、知り合った男性をいちいち気にかけていたら、
落ち着いて生活もできないじゃないの。」
「………………
(いやしかし、若いころのユーミ殿こそ、けっこう……!
いや、言うまい……過ぎたことを……)」



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