SSサンプル部屋

□【御剣×茜】不可解な行為
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捜査官となった宝月茜は、今日の仕事を終え、職場である刑事課の部屋を出た。
夕方でまだ日は高い。明るいうちに帰れるのはなんだか嬉しい。
しかも明日は非番なのだ。
警察署の玄関を出ると、なんとも派手な、真っ赤な色の車が停まっているのが
否応なく目に飛び込んできた。
と思うと、左ハンドルの運転席の男が窓を開け、
「茜さん。」
と呼んだ。
「御剣検事さん!? あの、こんにちは!」
その男は検事局きっての天才と呼ばれて久しい、検事・御剣怜侍だ。
茜は、かつて姉が検事局にいた頃、姉の部下だった御剣に世話になったこともある。
「お久しぶりです。突然ですまないが、今から少しつきあってもらえないだろうか。
もちろん、終わったら家まで送ります。」
「今からですか? ええ。いいですよ。」
茜はこの後何も予定はなく、帰るだけのところだったので、二つ返事で了承した。
茜は御剣の車の助手席に乗りこんだ。

車はとあるビルの地下駐車場に入った。
御剣は停車してもすぐには降りようとせず、茜に話しかけた。
「茜さん。失礼だが一点、確認させてもらいたい。今、意中の人はいますか。」
いやに真面目な面持ちで御剣が尋ねる。
「意中って……好きな人ってことですか?」
いるといえばいるのだが、それは目の前の御剣だ。
天才の呼び名に違わぬ有能な男で、茜は子供の頃から彼を大がつくほど尊敬している。
とはいえ、今ここで意中の人は御剣検事さんです、と面と向かって言ってしまっては、
まるで愛の告白になってしまうので、それは違う。
茜にとって御剣は恋愛対象とは少し違い、ただ、はてしなく憧れの存在なのだ。
「ううんと……いいえ。今はこの仕事に就いたばかりで、
まだそんなことを考える余裕はないです。」
「そうですか。……では、茜さん。ひとつ、頼みたいのだが」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと、両手を首の後ろで組んでもらえるだろうか。」
「首の後ろ? こうですか?」
茜が安全姿勢を取ると、御剣は茜の足元に腕を伸ばした。
レバーを引いて、茜の座席を倒す。と、ほぼ同時に茜の肩を押し、茜をあおむけに倒した。
茜は油断していた。というより、御剣の態度は全く落ち着き払っていて、
暴力をふるうような気配など感じられなかった。
押し倒されてもまだ、何が起きているのか、まるで理解も、警戒もしていなかった。
これは、警察官として不覚だったと思う。
その時の景色はなぜか、やけにスローモーションで茜の目に焼きつく。
ふいに御剣が茜の手首のあたりを押さえた。
ガチャリ。
いきなり耳の傍で冷たい金属音がしたので、なんだろう? と不審に思い、
茜は音のしたほうに視線を移した。
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