SSサンプル部屋

□御剣×巴
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大量殺人犯・青影丈の死刑が執行された。
御剣怜侍は過日、法廷で大量殺人犯・青影丈に容赦のない有罪判決を叩きつけたのだった。
その日の記憶が鮮明に蘇る。

御剣は犯罪者を憎む。
わけても殺人という犯罪は最も許せない。
他人の人生を身勝手に終わらせる行為は、この世で最も憎むべき犯罪だ。
そのような犯罪者は決して許してはおけないのだ。

青影の死刑執行の報告を聞いた御剣は、青影に有罪を与えた時の異様な昂ぶりが蘇った。
怒りか、達成感か、それとも何か他の原因なのか。
それはなんとも形容しがたい昂ぶりだった。体中の血がたぎってたぎって仕方がないのだ。
このままでは、青影の裁判の夜と同じく、今夜も到底眠れそうにない。かといって何処に何をぶつけてよいものやら、さっぱりだ。
自分で自分の精神をコントロールできそうにないことだけは把握できた。


「ご苦労様、御剣君。」
ノックをして執務室に入ってきたのは、地方検事局の首席検事に就任したばかりの宝月巴だ。
先頃の青影の法廷では証言台に立った。

巴は静かな口調で青影処刑の報せを聞いたかと御剣に確かめ、憔悴した表情を浮かべた。
「身内が巻き込まれた事件というのは…辛いわね。検事局だけでなく、警察局内の誰にとっても、辛い記憶として残るでしょう。いつまでも…」
巴は深く溜息をついて、うなだれた。


その時。
御剣自身にも、なぜなのかは分からない。
目の前に立つ巴の胸元に惹かれ、にわかに巴の裸体を思い浮べた。
そうなると、もう強烈な欲求を止めることができず、御剣は巴の手首を掴んでいた。そして勢いよく背中を抱き寄せ、掌で巴の肩を愛撫した。


巴は突然の事に息を飲む。
何より驚いたのは、御剣の体温だった。高熱といってもよいほど、興奮した御剣の体は熱を放った。
だから、御剣のその抱擁が、落胆する巴を慰める意図ではないことを、巴はすぐに理解した。


新しい上司を驚かせてしまった、自分は一体、何ということをしているのかと、ぼうっとした頭で必死に自制を試みた。
宝月首席検事はまだ独身のはずだが、もし婚約者がいるのであれば、とんでもないことになる。
馬鹿なことをしてしまった、では済まなくなる。
そんな考えがふと頭をよぎった次の瞬間、御剣は巴の体を離した。

そして、巴の目を見つめながら、口をついて出た言葉はこうだった。
「宝月首席検事。恋人はいらっしゃるのですか…」
自分が口にした言葉に、御剣が一番驚いた。
もはや自分が何を言い出すのか、自分でも予想ができない。

「御剣君、どういう…つもりなの…」
巴は戸惑いながら、御剣を凝視して言った。
「…怒って言っているんじゃないのよ。純粋に、あなたが何を望んでいるかを訊いているの。
御剣君。あなたは今、何をしたいというの。」
「それは…つまり…あの…」
舌がうまく回らない。もうどうにも自分を制御することができない。

「もしかして…男と女がすること、かしら?」
言葉でずばり言い当てられると、御剣は衝撃を受け、それをきっかけに更に欲求が強まった。

「でも、この場所は…支障があるわ。執務室です。」
「うう…っ。失礼、しました…」
御剣は恥じた。叱責されて当たり前だ。いくら何でも非常識だ。
御剣は羞恥心と罪悪感に居たたまれず、全身が熱くなるのを感じた。

「ここでは人が来るでしょう。…私についてきて。」
巴にそう言われたとき、御剣は一瞬、理解できなかった。
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