小説・茜部屋

□新年の誓い
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 話は先月、去年の暮れにさかのぼる。
 その頃から妹のそぶりに異変を感じたため、宝月巴は注意して様子を見ていた。

 その日宝月茜刑事が帰宅すると、姉の巴が台所で冬至のかぼちゃ尽くし料理の仕上げに掛かっていた。
 前日の晩は茜も、巴に命じられてかぼちゃを裏ごしした。それは巴の手によってすでに一部はポタージュスープとなり片手鍋に、一部はプリンとなって冷蔵庫に眠っている。

 夕べの裏ごしは、うまくできていたのか、茜は心配だった。

 巴が茜に調理を命じた場合、たとえ茜の調理がどんなに下手でも、巴は手伝わないし、出来上がった不格好な料理を文句一つ言わずに食べるのだ。
 無論、褒めてもくれないが、そこが姉の尊敬すべきところだと茜は感じている。なかなかできることではないはずだ。

 巴は茜に対して、お世辞に褒めることはけっしてない。巴が褒めてくれるときというのは、本当に上手くできたときだけだ。だから巴に褒められたら、心から喜んでいい。
 茜は巴に褒めてほしくて、夕べも真剣にかぼちゃと格闘したのだった。

「柚子湯の用意ができてるわ。入ってらっしゃい。」
「お姉ちゃんは? もう入っちゃった?」
「茜の後でいいわよ。」
「まだ入ってないんだね? ラッキー! ああ、早く帰ってきてよかったー!」
「?」
 茜の喜びようを巴が不思議に思っていると、茜が言った。
「お姉ちゃん。柚子湯、一緒に入ろ!」
「……何を言い出すのかと思ったら、この子は……」
 巴は呆れた顔をしてみせた。
「ねえー。一緒に入ろうよー……」
 上目遣いで茜が甘えるので、巴は心が動く。

 巴の言動は茜に対するしつけのようでいて、実は巴自身を律していたのだった。
 本音を言えば、巴も可愛い妹を存分に甘やかしたい。何でも茜の望むようにしてやりたい。しかし、それでは茜のためにならないと分かっているから、しないのだ。
 巴は常に、自分の願望は捨て、茜の最善のみを考えて茜に接していた。

 そういえば、5月には菖蒲湯に巴と一緒に入れなかったことで、茜は一晩中しょげていた。
 そんなことぐらいで、とその時も巴は呆れた。
 大体、浴室がそう広くはない。いたって普通の面積だ。大人が2人入るには少々窮屈である。どうして無理をして一緒に入る必要があるのか。

 とはいえ、茜が帰国してまだ1年目である。だから、少しは甘えさせてもいいかもしれない。
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