小説・成響部屋

□Invitation
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「キミの気持ちを受け止めるには、ボクはまだ、人間ができていない。
……まだ、乗り越えていないみたいだ。」
「解るよ……」
もとより、同性を好きになって、ハッピーエンドなんて考えてもいなかった。
だから、受け止めてもらわなくて構わない。

牙琉自身、なぜこんなに彼にひかれるのか、まだよく解っていなかった。

親友を失い、信じていた家族に裏切られ、傷ついていた。
しかし彼らは自ら悪事に手を染めていたのだから、どうなろうと自業自得だ。そう思えば納得できる。
最後に牙琉の胸中に残った、どうしても消えない傷――それが成歩堂だった。

「アンタは、なにも悪くなかった。それなのに――」
「待った。キミが言ったんじゃないか。忘れたのかい? ボクは不正な証拠品を法廷に提出したんだ。」
「それを出させたのはボクだ。提出するように、仕向けたんだ、ボクが……!」

突然だった。牙琉は成歩堂に正面から抱き締められた。
なにが起こったのか解らず、驚きで声も出なかった。
「どんな気分?」
「……恥ずかしい。けど……」
「……」
「ずっと、こうしていてほしい、かな……」

許しがほしかったのかもしれない。
成歩堂を陥れてしまった自分。
計略にはまってしまった成歩堂。
片棒を担いでしまった自分。
成歩堂は法廷を去り、自分は今ものうのうと法廷に立っている。
……おかしいではないか。
どうしてこんなことになったのか。
もう元には戻らない。
取り返しがつかない。
どんなにつぐなっても、つぐないきれないのだ。

「……それにしても、キミ、でかいね。」
牙琉は身長が成歩堂より高い。牙琉の靴底が厚いため、10センチ以上の差があった。
成歩堂に強引に抱き締められた格好だったので、牙琉はやや前傾姿勢で、成歩堂に寄り掛かっていた。
それで成歩堂は重かったので、つい先程の言葉を口にしてしまった。
牙琉がまっすぐ立とうと、成歩堂の胸から体を離そうと動いたとき、成歩堂は
「ちょっと待った。」
と一瞬引き止めた。

ただでさえ間近にあった成歩堂の顔が更に近づいたから、牙琉は驚いたのなんの。
「ちょっと……! それはいいって……!」
牙琉は抵抗し、思わず大きな声が出てしまった。
「アレ。抱き締めたら、次はキスするのが普通だろ?」
勘違いだったらどうしようかとほんの少し心配したが、やはりキスしようとしていたのか、とはっきりして、牙琉はあらためて動揺した。
「普通じゃない! 男同士だ!」

「なんで拒むかなあ……。
キミ、本当はボクを好きなわけじゃないんじゃないか?
自分で自分の気持ち、勘違いしてるってことも、あるだろう?」

牙琉ははっとした。
成歩堂の顔を見つめてみた。
胸が痛い。これは、罪の意識なのか。
でもそれだけじゃない。
切なさと恥ずかしさで胸が高鳴る。
この人からひと時も離れたくないと願う。
これが恋でなくて、なにを恋と呼ぶのか。
「……違う。ボクはアンタを、間違いなく、好きだ。……と思う。」
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