小説・成響部屋

□Invitation
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急に牙琉の手に温かいものが触れた。成歩堂が牙琉の手を握ってきたのだ。
牙琉はびっくりした。緊張で全身にどっと汗が出る。

しばらく男2人で手をつないだ状態で歩いた。
それはほんの数秒だったかもしれない。
しかし、牙琉には数十分もの長い時間にも思えた。
心臓の鼓動が収まらない。
呼吸が苦しい。

「やめてくれ!」
牙琉は成歩堂の手を振りほどき、思わず叫んでいた。
成歩堂は突然のことに呆気に取られた。
「ボクは、本気でアンタが好きなんだ! だから、もう……やめてくれ!」

苦しかった。
耐えきれなかった。

成歩堂には気持ちがない。
もちろん、彼の心を望んでいるのではない。
だが、こうして触れ合うことを望んだのでもない――まして、心のないままなど。
いったい、これは親切心なのか?
彼はなぜ、自分を苦しめるのか。
いや、自分はなぜ、彼に触れられるとこんなにも苦しいのか。

成歩堂は牙琉の切なげな顔を静かに見た。

牙琉はその視線に気付かず、成歩堂に背を向け歩きだした。



…(中略)
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