藍日




「冬獅郎、薬の時間だよ」
寝具に横たわった日番谷は目の前の人物を見て、目を見開いた。
頭は霞みがかった様で、体は全体的に重く、言う事の聞かない身体を叱咤し起き上がるとズルズルと後へ下がる。
薬を手にし、口元に笑いを湛えて迫る藍染から逃げる為に。
体内を唸る熱に額から汗が伝った。
「ぅ…い、ヤだっ!」
しかし、壁側まで逃げる前に藍染の腕に捕まり、震えが走る。
四肢に力を入れ抵抗をするが、藍染は眉一つ動かさずに軽々と日番谷を腕の中に閉じ込めた。
「口をお開け」
薬を片手に、空いた手は逃がさない様にしっかり日番谷を抱き、冷たく言い放つ。
「嫌だっ、、っ」
歯を食いしばり、頭を振る。
「口を開けなさい」
「んーっ!」
上を向かせ、顎を掴むが、引き結んだままの日番谷に溜息を一つ吐くと鼻を摘んだ。
しばらく苦しさに耐えつつ、腕から逃れようと悶えていたが、やがて耐え切れずにぷは、と口を開く。その一瞬を逃さず、日番谷の口の中に薬を入れた。
「すぐ気持ちよくなる」
「っ…んっ」
顎を捕まれ、吐き出す事も出来ずに無情にも口に広がる薬に日番谷は目を潤ませた。
「ホラ、飲み込んで」
「んぐっゴホッ、ゴホッ、ぁ、はぁ…はぁっ」
喉を鳴らして飲み込んだのを確認すると藍染は日番谷の拘束を解いた。
それに合わせて日番谷は床にへたりこむ。
「イイ子だね」
「くっそ…っ」
「徐々に良くなる。そうなったらそんな口も利けなくなるさ」
腕の中で小さく悪態を付いた日番谷を笑いながら、最初と変わらない笑みを浮かべ、日番谷を抱えると布団に寝かせた。
「…っ」
「苦しいかい?」
布団の中でうずくまり、息を詰まらせた日番谷の額の汗を藍染は楽しそうに拭う。それを乱暴に払うとキッと藍染を睨み、噛み付く様に怒鳴った。
「てめぇのせいだろっ!」
「何を言う。君がいう事を聞かないからだろう?」
さらりと流す藍染に悪態をつこうと口を開けたところで薬が喉に絡みつき、咽せ、声にはならない。苦しげに何度か咳き込むと目に涙を浮かべたまま、今度は掠れた声で言い返す。
「…――粉の薬は嫌いだって言ったじゃねーか!」
「元気そうで何よりだ」
はは、と笑いながら水を差し出す。
「元気じゃねぇよ。苦えし、咽るから嫌なんだって」
藍染に寄り掛かりつつ、コップの水を空にすると起きてる事が辛いと言うかの様に座った藍染の足の上へ倒れ込む。
「日番谷くんが薬苦手なんて、可愛いトコもあるよね」
「苦い粉だけだ!」
膝枕のようになった日番谷に布団を掛け、乱れた着物を直してやる。
「風邪を引いたんだから治るまでは我慢しなさい。じゃないと皆の前で飲ませるよ」
苦さに涙を浮かべた日番谷をあやしながら、近くに置いた桶から絞った冷たい手ぬぐいを額に載せた。
「…藍染の意地悪!」
いいながら口を尖らせそっぽを向く。せっかくの手ぬぐいも落ち、もそもそと藍染の胡座をかいた真ん中で丸くなった。布団に包まったまるで蓑虫の様な日番谷のその姿を無言で藍染は見つめる。
「……僕の理性を試しているのかい?」
低く呟いた藍染の声は布団の中で辛そうに咳を繰り返していた日番谷には届かず、代わりに藍染の手を握ってきた熱い手に微笑み、お休み、とキスを落とした。






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