物語
□また来年も
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「覚えているかい?」
少年がマフラーを上から押さえて冷たい隙間風を凌ぎつつ歩いていれば上から声を掛けられた。
そのまま緑色の瞳を動かして声の主を視野に入れる。
しかし、前を向いたままの声の主の男は少年よりもずっと高くこの位置からは顔が伺えない。諦めて少年も再び前を向いた。
「来年も君を祝うと言った日の事を」
目を細めて笑みを少年に向ける。
視線を感じたのか、少年も男に目線を向けた。
微笑を浮かべる男と違って口元がマフラーに隠れた少年の表情は無表情だ。
それもさして気にしていないのか歩みを止めずに男は答えを待った。
「ああ、覚えてる」
あの日と同じ様に十番隊の屋根に向かっている。
違うのは、二人で一緒に向かっている事、屋根には誰もいない事。