物語


□ログ
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母親に女の子が欲しかったの、と理由を聞かされたのは随分前だった。
仕舞われて日の目を見る事がなくなったのだが(たまに母親が「この頃は可愛かった」と眺める程度)久しぶりにそれを手にした人物がいた。


交流が不得意な日番谷が中学に入って初めて出来た友人がその日、初めて日番谷の家を訪れていた。
友人、草冠はお茶を取りに行って誰もいない質素な部屋でそわそわと周りを見渡す。
ふと、本棚の角に古びたアルバムを見つけ、悪いと思いながらも手にした。
ドキドキしながら開く。
小さい頃の日番谷がきちんと整理されて並んでいて、その中でも一際目についた写真があった。

「てめ、何見てんだよ!!」
「ひっ!と、冬獅郎!?いつの間に戻ってたんだ?」

草冠が夢中になっていると後ろから部屋の主が帰ってアルバムを勢いよく取り上げた。
罪悪感あった草冠は焦った顔で日番谷を見上げると、開いていたページが目に入った日番谷がピクリと眉間に皺を寄せた。

「……見たのか?」
「え?あ…、ごめん」

どすの効いた声で問い質され、反射的に謝る。
しかし日番谷からは許す雰囲気はない。

「見たのかって聞いてんだ」
「あの、着物のとか…可愛かったよ?」
「見たんだな?」
「あ、うん…ごめん」

小さく縮こまった草冠をしばらく睨んでいたが、大きく溜息をついて机の上にアルバムを放った。

「もーいい。ほら、茶」
「許してくれるかい?」

怖ず怖ずと差し出されたコップを受け取りながら、立っているために視線が上の日番谷を見上げる。

「…許さねーけど、もういい」
「…そう…」

沈黙が続いた。草冠は日番谷を窺いながら落ち着きなく、アルバムと日番谷を交互に見合っている。

「あ゛ーっ!気になんなら聞きゃいいだろ?」

突然苛々と言い放ち、頭を掻く日番谷に草冠は顔をあげた。

「教えてくれるの?」
「……」
「気になるんだ!あれ、冬獅郎だろう?」

罪悪感など消し去り、好奇心に目をきらつかせる草冠に日番谷は呆れたように溜息をついく。
しかし、うざったそうに手を振るも諦めたように、そうだと認めた。

「本当に?なぁ、もう一回見せてくれよ」
「嫌だ」
「…冬獅郎はケチだなー」
「ケチで結構」
「だから小さいんだよ」
「……何か、言ったか?」
「ごめんごめん。でも本当に可愛かったからさ」

お茶を啜りながら笑う草冠に不機嫌にそっぽを向いて思いを馳せた。

雛祭り、という行事に浮かれた母親が隣近所の幼馴染に着せた着物を日番谷にも着せた時の写真が草冠が見たものだった。
赤い着物に色取り取りの花が散りばめられた着物。
大きくなってしまった幼馴染はもう着れず、箪笥の肥やしになっていたものを着たのだが、その頃の日番谷はまだ幼く、上手く言いくるめられて着た様なものだった。
雛祭りと一緒に座る銀髪の着物姿の日番谷はどこからどう見ても女の子にしか見えない。
今まで人を部屋に呼ぶことがなかったから見られる心配などなかったが、なるほど、と頷いて次はクローゼットの中にでも仕舞おうと誓った。



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