過去の女神と未来の天使〈胎動〉

□第壱話 虚無の中のニンジン
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第壱話 虚無の中のニンジン






「ぅ……ん……?」


シンジが目を覚ますと白い空間にいた。床はあるのでしっかり踏み締めることができる。
シンジは状況が飲み込めずしばらく呆然と虚空を見つめていた。


「僕は、死んだのかな……?」


手を握り、広げる動作を繰り返して自分が生きていることを確かめた。幽霊ではなかったことに少し安心した。







ドサッ






何か落ちた。唐突な出来事に思わずビクッと縮こまった。
恐る恐る振り向くと少女が倒れていた。


「!?」


シンジは少女に駆け寄り腕に触れて脈を確かめた。ゆっくり均一なリズムで血は流れていた。
シンジは胸を撫で下ろすと少女に呼び掛けた。


「もしもし、大丈夫ですか?」
「…………」
「大丈夫ですか?」


仰向けの状態にして少女の頬を軽く叩いた。少女はピクリとも動かない。


「もしもーし!」
「…………」
「生きてるんですよね!」
「…………ん?」


少女は漸く目を覚ました。


「あ、あれ私、死んだはず……?」
「君は生きてるよ」
「……貴方は?」
「僕は碇シンジ。僕もサードインパクトで死んだと思ってたけど」
「サードインパク
ト?」
「いわゆる……爆発事故だよ」


少女は住んでいる世界が違うらしく、よく分かってないらしい。シンジも似たような言葉でごまかした。


「あ、私は宮藤芳佳です」
「宮藤さんか」
「はい」


シンジの手に捕まり、フラフラしながら立ち上がった。
二人の周りには何も無い。


「ここはどこですか?」
「分からない、死んだと思ってたらここにいて……心臓も動いてるのに」


シンジと芳佳はまっすぐ歩き出した。どこかに出口があるはず、と二人は信じていた。










「疲れた……」
「まだ……見えない」


かなり歩いた。しかし景色は何一つ変わっていない。右に曲がったり左に曲がってもただ白い世界が広がっているだけ。
まるで出口の無い迷宮に閉じ込められた雰囲気だ。


「少し休憩しませんか……」
「そうだね……」


二人は白い地面に座り込んだ。
触り心地は柔らかくない、しかし固くない、不思議な感触だった。


「宮藤さんって事故で死んだの?」
「まあ事故かな?ネウロイと戦っていたら撃たれて……」
「……撃たれた?」
「私第501航空団に所属している軍人なんです」
「へー凄いね」
「そ、そんなこと…………?



芳佳は後ろを見た。そこにあったものに目を丸くした。


「シンジさん、後ろ見てください!」
「?」


シンジが振り返ると後ろには巨大なニンジンが浮いていた。普通のニンジンではなくオブジェのような輝きを放っている偽物だ。そもそもこんなニンジンがあるわけ無い。


「なんだろう……?」


シンジはコンコンと軽く叩いた。
すると二つに割れて中からウサギが飛び出した。


「ヤッホー、始めまして。この空間を作り出した天才篠ノ之束さんだよ〜」
「…………」
「…………」


シンジと芳佳はポカンと口を開けた。


「あれー?シラけちゃった?」
「…………作った?」
「そ、たまたま不良品のコアを弄ってたら暴走して、物理法則を捩曲げちゃうような空間が生まれたの。ただ単に異次元の世界かと思いきや、なんと!」


束は二人の目の前にいくつものモニターを展開して見せた。


「私の開発したIS。そのISの適正値がずば抜ける人が迷い込む空間。その名もISホイホイ!」
「…………」


Gが引っ掛かりそうな名前だと二人は思った。


「という訳で君達はISの操縦者としてここに呼び出したの」
「つまり、どこかで死んだ人でI
Sっていうのが使える人がこの空間に生き返って戻ってくることですか?」
「そ、時々生きたアンモナイトやホホジロザメ、果てには見知らぬ未確認生物や宇宙人がやってきてびっくりしたもん」






簡単に言えば二人がいるのは死んだ後にIS適正値が高ければここに来ることができるらしい。
束の言う通り何度か入ってきたが全て生き物であり人間では無かった。
人間が来たのは今回が始めてだという。


「とりあえず君達はラッキーなことにISを動かせる。始めて人間がやって来たからISを造ってあげるよ」
「そもそもISってなんですか?」






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