過去の女神と未来の天使〈胎動〉
□第拾肆話 かたい、ながい、つよい
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クラス代表決定戦から数日が過ぎ、平穏な日々を過ごしていた。
「これよりISの基本的な飛行操作をしてもらう。織斑、オルコット、宮藤。試しに飛んでみせろ」
専用機持ちの三人は意識を集中させる。
ISは起動させない待機状態の時はアクセサリーのようになっている。一夏は右腕にガントレット、セシリアは左耳にイヤーカフス、芳佳は胸元に十字のペンダント。ISによって様々だ。
「早くしろ、熟練者なら一秒とかからん」
まず先にセシリアがブルーティアーズを展開し、次に一夏の白式、最後に遅れて芳佳の零式が展開された。少し時間が掛かったが千冬はまあいいと言って見逃した。
「よし、早速飛べ」
セシリアは直ぐに芳佳も彼女を追うように上昇する。一夏も一足遅れて飛ぶが二人より上昇速度が小さい。スペックとしては白式が二人より上だ。なんとか追いつこうと出力をなんとか上げていく。
セシリアから「自分のわかりやすいようにイメージするのがいいですわ」とアドバイスされたがそれでもイマイチ空を飛ぶ感覚が掴めない。
芳佳も一夏と同じ素人だが飛行操作だけはセシリアと同じく慣れたように舞っている。
「自分が鳥になって飛べば簡単だと思い
ますけど」
「鳥って、羽ばたくようにか?」
「羽ばたくというより何て言うかその……フワッというかスーッというか……ごめんなさい、分かりにくくて……」
芳佳も上手く説明できない。
以前芳佳は力押しでストライカーユニットを起動させ、いつの間にか何気なく飛べるようになっていた。そのため芳佳自身もその飛ぶ感覚がうまく表現出来ず悩んでいる。
「一夏さん、もしよろしければ放課後に指導して差し上げますわ。その時は」
「一夏!いつまでそこにいるんだ!さっさと降りて来い」
通信回線から怒鳴る声が聞こえた。モニターには怒りを露わにした箒が映っていた。
「地上のみんながよく見えるね」
「ISは元々宇宙空間での使用を目的として開発されたもの。何万キロも離れた星の光を利用して位置を把握するのだからこれくらいは当たり前ですわ」
セシリアはスラスラと説明した。芳佳もなるほどと頷く。優等生の説明はやはり違う。
「織斑、オルコット、宮藤。急降下と完全停止をやってみろ。目標は地上から10センチだ」
「了解ですわ」
お先にとセシリアは先に降りていった。芳佳と一夏はセシリアを追うように地上へ向かった。
ズドオ
ォォン
轟音と共に砂煙が立ち上った。
「……誰が地上に突っ込めと言った」
「す、すみません……」
「ごめんなさい……」
一夏はクレータを作るほど地面に突っ込んでいた。芳佳も一夏ほどでは無いが右足が泥濘(ぬかるみ)に嵌まったように埋まっている。成功したのはセシリアだけだ。ISのシールドバリアーのおかげで身体や機体には傷一つ無い。だが周囲のクスクスした笑いに心が傷付いた。
二人は地面から抜け出し、今度こそしっかり地上で止まった。