□今さら流れてくる涙は、
1ページ/1ページ





昨日、彼女が死んだ。



もとから身体の弱い娘で、入退院を繰り返していた。



いつも通りにお見舞いに行って、帰ってきて、普通に過ごしていた。




あの電話が掛かってくる、までは。



電話で話を聞いた時は、いきなり過ぎて頭がついていかなかった。



そして、今は彼女との別れを皆が嘆いている。



啜り泣く声に包まれる中、俺は一人涙を流すことができず呆然としていた。



愛していなかった訳じゃない。
むしろ、愛しすぎていたくらいなのに。




家に帰って、俺は自分の部屋に閉じこもっていた。



(…、なんだろう、)



悲しくない訳がない。



なのに、涙は流れはしない。



(別に、泣きたいとかいう訳じゃないけど)


(…なんか、頭のなか、ごちゃごちゃしてきた…)


目を瞑ってベッドに俯せに寝転がる。

ごちゃごちゃに絡まった思考をほどこうと、考えている事を整理してみよう、



今すぐ、君の笑顔がみたい。


今すぐ、君の声を聞きたい。


今すぐ、君をこの手で抱き締めたい。






今すぐ、君に伝えてあげたい。





(…っあ、)




刹那、俺の頬には涙が蔦っていた。



(ああ、そうか)



きっと俺は、受け止められていなかったんだ。




君に、もう二度と触れることは無いと。



君と、もう二度と言葉を交わす事は無いのだと。





この想いも、もう君に伝えられる事は無いのだと。






(ありがとう、僕は君の事を愛しています。)






今さら流されてきた涙は、
(きっと止まる事など無いのだろう。)







.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ