*紅 

□跪いて我が血を飲め。
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[アポ]


「失礼します。お嬢様、お茶をお持ち致しました」
「ありがとう」
目の前のテーブルに、2つのティーカップが置かれる。そしてカップに温かい紅茶が注がれた。
「時雨、アレを持ってきてちょうだい」
「・・・はい、分かりました」
“時雨”という男は無表情に、だが少し驚いた様子だった。
「アレって・・・?」
「すぐに分かりますよ」
あずさがにっこり笑う。
・・・かわいいなぁ//////

―数分後―
「用意が整いました」
時雨が小さな箱を持ってきた。
「ありがとう。下がっていいわ」
時雨を下がらせると、あずさはその箱を開けた。
中には、綺麗で鋭い刀が入っていた。
「何に使うの?」
気になったのでそのまま聞いてみた。
・・・・・・軽い気持ちだった。
あずさは刀を掴み、左手首の血管を切った。
「な、何やってるの!?自殺!?駄目だよ!!」
「黙れ」
さっきまでのあずさと一変し、低い声で言った。
「私の守人になることを誓え」
「えっ?」
「そなたには特別な能力がある。私にはそなたが必要なのだ」
お、俺が必要・・・?
「そんなこと言われても・・・・・・」
「嫌?」
いつものあずさに戻った。
断られるのを恐れているような表情をしている(どんな表情だよ)。その間も手首からは血が流れている。
「そ、そうじゃなくて・・・」
もっと詳しく説明してくれっ!!
「さっきも言ったけど私、よく誘拐されそうになるんです。さっきも私をお守りしていただいたように、私の専属として、ガードマンをしていただきたいんです」
 必死に説得するあずさに桃瀬は戸惑う。
「そんな、急に言われても・・・」
「やっぱり、嫌ですか?」
悲しそうなあずさを見て、桃瀬は言ってしまった。
「やりますっ!!」


「契約方法は簡単なんです。蒼馬さんが跪いて、私のこの血を少しだけ飲めばいいんです」
「えっ!?」
跪いて?しかも紅さんの血を飲むって!!?
「私が貴方を呼んだとき、つまり助けを求めたりしたときに、その血ですぐに分かるのです」
じゃぁ、携帯も必要ないし、便利なわけだ。
――・・・・・・って、んなわけあるかぁああっ!!
「蒼馬さんの百面相って面白いですね」
嗚呼、俺がとても悩んでいるのに、この娘は天使の笑顔で小悪魔的なことをおっしゃる・・・・・・。
「では、始めましょ」



[チプロ]



あずさに言われるがままにとりあえず、畳の上で立膝をする桃瀬。
彼の脳内は混乱に陥っていて、まともに機能していなかった。

今起こっていることがあまりに非現実的すぎて、
彼の思考が付いて行けてないのだ。
そんな事お構い無しに、儀式とやらはどんどん進行していく。

ふと桃瀬が部屋を見渡すと、いつの間に来たのか見知らぬ人が2人自分を見ていた。

おそらく桃瀬と同じぐらいの年だろう少女と二十歳ぐらいの男が
時雨という人の横に座っていた。

「あいつらは一体誰なんだ・・・?」


そんな疑問を浮かべた桃瀬に、あずさは血の滴る左手首を差し出す。
驚いてを見上げると、あずさは
「手をとって下さい・・・・」と小声教えた。

そっと手をとる桃瀬の指に、彼女の血が伝う。
人がリアルに血を流しているところなんて見たことが無い。
もちろんそれに触れたことも無い桃瀬は
水を浴びたように体の底がヒヤリとするのを感じて、思わず手に力が入った。

そんな桃瀬を見てか、あずさは申し訳なさそうな表情で右手を桃瀬の手にそっと添えると、
静かになだめるように言葉を発した。

「蒼馬さん・・・」
じっと見つめるあずさの瞳に、桃瀬はゆっくりと目を合わせる。
「このようなことに巻き込んでしまって申し訳ないと思っています・・・・。
ですが、どうしてもあなたではないといけないのです。」
彼女の右手にわずかだが力が入る。

桃瀬は気付いた。

彼女は本気だということを、
それと同時にとても不安なんだということを。


「理由あっての行為だと言うこと、分かっていただけますか・・・・?」
その言葉に桃瀬がゆっくりと頷くと、彼女の口元は少しだけ緩んだ。
そしてあずさは、小さな声で
「ありがとうございます・・・・・・」
と呟き、右手をそっと桃瀬の手から退けた。




「蒼馬桃瀬・・・・。汝は、我が紅一族の血を汚れから守りそれらを抹消する、
此の紅あずさの守人になることを誓うか・・・」

そう言うあずさの表情は不安げで、だが何処か嬉しそうだった。


「・・・誓います・・・・。」
桃瀬はそう言うと、彼女の手首にそっと口づける。

あずさの血の味が彼の口の中に広がり、それをゆっくりと飲み込んだ次の瞬間
彼の体は酒でも飲んだかのようにカッっと熱くなり、
体中の血が逆流したかのような変な感覚に襲われた。

「っ!」
突然のことに驚き、息を呑む桃瀬。

一体俺はどうしたんだ・・・・・・・・・・?


疑問を頭に浮かべる彼の視界は、ゆっくりと漆黒の闇に染まっていった・・・・・・。



    
   
          
 

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