*紅 

□帰り道には危険がいっぱい!
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[アポ]

「おいおい、転校生と何か縁があんのか?」
海斗が少し羨ましそうに言った。
「い、否・・・・・・ただ、朝ちょっと会っただけ・・・・・・」
けど、結構俺って運いいかも。
ガラッ
「1時間目始めるぞー。席付けー」
1時間目はあずさのために一人一人自己紹介をした。
「蒼馬桃瀬です。えーっと・・・特技は・・・・・・」
どうしよう。おれ、特技なんてそんな大層な物、持ってねーよ・・・・・・
「お、何だ何だ?蒼馬にも特技があんのか?」
海斗がふざけて言うと、クラスがどっとわいた。
「気になります。何ですか?特技は」
あずさが言う。くそっ。後戻り出来ねー。
「えっと・・・・・・歌です」
はぁ?何言ってんの?俺。
「じゃぁ歌えよ!」
クラスの男子が皆言う。
「聞かせて欲しいです」
あずさがうれしそうに言う。
「・・・・・・歌います!!!何かリクエストは?」
「校歌歌ってやれ」
先生が湿気たことを言う。
ウチの校歌、なげーんだよ。
「・・・きーせーつの魚―が、かーすーうめー泳ぎー・・・・・・」
あー、もう嫌だああああああ!!!!!

キーンコーンカーンコーン
「さよーならー」
「紅さんっ」
「はい」
「あの・・・一緒に帰らない?」
「え・・・?」
「あ、その・・・いろいろ慣れるためにも・・・さ」
「はい。ありがとうございます」


「ここが・・・紅さんち・・・・?」
「はい」
スッゲー。こんな大きな家、初めて見た。
「どうぞ。入ってください」
「あ、いや・・・遠慮なく・・・。俺はもう帰るから・・・・・・」
「御用があるんですか?」
「そーじゃないけど・・・・・」
「じゃあ、あがってってください。今日のお礼がしたいんです」
「はぁ・・・・」
じゃぁ、ちょっとだけ・・・・・・

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま。時雨、今すぐお茶の用意をしてちょうだい。お客様がいらっしゃったわ」
「はい」
凄い。こうゆーの、初めて見た。
「蒼馬さん、今日は本当にありがとうございました」
「え・・・?あ、うん」
「私、よくあるんです。よく誘拐されそうになったり」
今日の下校中、ちょっとした(でもないが)事件があった。
それは・・・・・・。



[チプロ]
 それは、あずさの家までの道のりを、2人で学校の話をしながら歩いているときだった。

「今日の蒼馬さんの歌、とてもステキでしたね」
「なっ!・・・お世辞なら海斗たちから飽きるほど聞いたって・・・」
「いいえ、お世辞なんかじゃないですよ!
本当に心がこもってらっしゃって、すばらしかったです・・・・」
女の子に面と向かってこんなこと言われる体験は初めてだった桃瀬は、
恥ずかしくて思わず頭の後を掻いた。
桃瀬を見ながらあずさは優しく微笑む・・・・。
その時だった。


「おい!」

不意に後ろで低い声がしたと思うと、
突然桃瀬の視界からあずさの姿が消えた。

驚いて振り返る桃瀬。とその瞬間、彼の動きは固まってしまった。
そこには、金や赤に髪を染め、耳や口にはピアスという、
いわゆる“不良”という人たちがいた。
そして、その中心には彼らに腕を掴まれたあずさがいる。

「キミ、可愛いねぇ!」
その中の1人があずさに顔を近づける。
「なっ…何するんですか・・・」
顔を背けるあずさ。
すると今度は他の男が彼女の顔を覗き込む。
「おっマジだ!ねぇねぇ、名前なんてーの?」
「はっ離してください!」
必死に腕を振り払おうとするあずさだが、もちろん力でかなうはずもない。
彼らは、怯えるあずさを楽しそうに囲む。

そんな光景を見ているにもかかわらず、桃瀬は動かなかった。
いや、動けなかったのだ。
今の状況で彼女を助け出すためには、彼の人生はあまりに平凡すぎた。
自分の平凡さに疑問を感じるほどだ。
もちろん、こんなスリリングな現場に居合わせたことなんて、無い。
だからこんな時どうすればいいかなんて、桃瀬は知らない
不良たちに暴力をふられるかもしれないという恐怖が、
彼の足を後ろへうしろへと引っ張る。


「どうすれば・・・良いんだ・・・!」



自問自答を繰り返す桃瀬。
「俺たちと一緒に遊ぼうよ〜!」
真っ白な桃瀬耳に入ってくる、不良たちの声。
「やっ・・・!」
必死に抵抗するあずさ。
「・・・っやめて」
涙声で言う彼女に、腐った男達は興奮している。
「大人しく・・・しろって言ってんだよ!」
1人の男が彼女の服に手をかけた。
「いやぁぁぁっ!!!!」



「やめろーっ!!!!!」
気付けば桃瀬は、走り出していた。
怯びえるあずさと奴らの間に入り込むと、彼女をかばうように両腕を広げた。
きっとあずさの叫び声を聞き、桃瀬の本能が彼を動かしたのだ。

「何だ?お前」
さっきまで猫撫で声で喋っていた不良どもの声が、突然低く恐ろしいものへと変わった。
桃瀬の足は狂ったようにガタガタ震えた。
でも、あずさを守ろうとする両腕だけはしっかりと伸びている。

「邪魔なんだよ!!」
桃瀬の1番近くにいた男が、突然彼に殴りかかってきた。
震えて除けることも出来ない桃瀬は、奴のこぶしまともに食らい
コンクリートに倒れこむ。
口の中に鉄の味が広がったとともに、ひどい痛みが桃瀬の頬を襲った。
「っっ!!!」
声にならない声が彼の口から漏れる。
下を見ると、コンクリートに赤い雫が垂れていた。




・・・・・俺の・・・・・血?




ザワザワッと腹の底辺りで何かがうごめく感じがした。
と次の瞬間、
桃瀬は何かに突き動かされたように立ち上がると、
自分を殴った男の左頬を思いっきり殴ったのだ。

“バキッ―・・・・・”

鈍い音がすると同時に、その男が吹っ飛ぶ。
突然の出来事にそこにいる誰もが、桃瀬自身さえ驚いて息を呑んでいた。

何だ・・・?今の・・・・。

俺がやったのか・・・?


「おっおい!!!!」
不良たちは飛ばされたそいつの元へ駆け寄る。
そして、そいつを見るなり青い顔をして叫びながら逃げていった。


何事かと桃瀬も駆け寄って男を見た。
そして、目を疑った。

なんと、桃瀬が殴ったところの肌が、まるで焼き鏝でも当てたかのように、
黒くただれていたのだ。

「何だ・・・・。コレ・・・・・」
自分の拳を見る桃瀬。
何の変哲も無い、いつもの自分の手だった。

立ち尽くす桃瀬の横に、あずさがすっと並ぶ。
伸びた不良をしばらく見つめると、桃瀬に向き直った。

「あの・・・、大丈夫ですか?」
「えっ」
あずさの呼びかけに現実に引き戻される桃瀬。
「だって・・・・口から血が!・・・」
慌ててハンカチを出し、口の横を押さえるあずさ。
「あぁ・・・。別に平気だって」
実際平気じゃないが、さっきの現実離れした光景を見て
痛みはどこかへ吹っ飛んでいた。
「・・・・ごめんなさい・・・。私が絡まれたせいで蒼馬さんがこんな・・・!」
あずさは、心配そうな表情に潤んだ目を桃瀬に真っ直ぐ向けた。
そんな彼女の表情に、また桃瀬は胃の辺りが締め付けられるような感覚を覚えた。
「いや、ホント平気だから!」
心なしか顔も熱い気がする。
何だ?この感覚・・・・

桃瀬の頭にそんな疑問が浮かんだが、またすぐ消えた。
とりあえず今は・・・

「帰ろう。紅さん」
もう何も起きないコトを願って、彼女を家に送るだけだ・・・・・。





         
 

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