*紅 

□転校生は着物服。
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[アポ]

ガラッ
「すいません!寝坊しました!!」
桃瀬は急いで教室に入る。――本当は寝坊なんかじゃ無いが・・・・・・
シーンと教室が静まる。
一斉に視線が桃瀬に集まった。
「・・・・・・アリ?」
そして次第に周りがお喋りを再開する。
ボーっとしていた桃瀬に、中学でクラスが一緒だった海斗が話しかけてきた。
「まだ遅刻じゃねーよ。ギリギリだったな」
「良かったぁー」
そして桃瀬は席に着く。
隣の席には誰もいない。隣の人も遅刻かな?
ガラッ
「席着けー」
先生が入って来ると、皆席に着く。
「この中のメンバーのほとんどが中学から一緒だった奴等だと思う。そして今日から新しく1年間一緒にやってく奴が増える。入って来い」
一人の女の子が入ってくる。この子はさっき、桜の木のトコであった子だ。
女の子と目が合い、その子はニッコリと笑う。
笑顔の似合う子だな。
「紅 あずさです。よろしくお願いします」

[チプロ]
照れくさそうにお辞儀をする“あずさ”と名乗るその少女。
あずさの髪の毛はお辞儀をした勢いでサラサラとなびいている。
1本1本がとても細くて真っ黒でキレイだ。
頭を上げた彼女の頬は緊張しているのか、ほんのり赤い。
生徒達の反応はというと、桃瀬同様。
いまどき着物なんて珍しいと思った人が多いらしく、誰もが息を呑んでいた。


「紅、お前の席はあそこだからな。」
先生は桃瀬の隣の席をさしながら言った。
「はい・・・」
あずさは静かに返事をすると、スッと桃瀬の隣の席に向かって歩き出した。
その上品な歩き方に教室中の視線が集まる。
彼女が桃瀬の隣の席に着くと同時に、
列向こうの海斗が桃瀬の腕を叩き小声で呼びかけてきた。
「なあなあ、桃瀬!」
「何だよ。」
桃瀬が振り向くと、海斗は身を乗り出して言った。
「転校生。可愛いな・・・!」
「はぁ?」
突然の彼の発言に目を丸くする桃瀬。
もう一度改めて自分の左にいる人を見てみる。

黒くて細い髪、
透けるように白い肌、
スラリと生えるまつ毛、
桜色の唇、
そして、まっすぐに前を見つめる赤い瞳・・・・・・。

桃瀬があずさを観察していると、視線に気づいたのか彼女ものこちらを振り向いた。
バッチリと目が合う2人。またも目が逸らせなくなる桃瀬。
すると、彼女はニコリと微笑んだ。
その瞬間、桃瀬は胃の下のほうをキュンとひねられた様な奇妙な感覚がするのを感じた。


「紅は、まだこの学校の事は何も知らない、わからない。
だからもし困ってるのを見かけたら、すぐ助けてやるんだぞ、わかったな!」
先生は、教室全体を見渡しながらいった。

そっか・・・
何もわからないんじゃ色々不安だろうな。
ちょっと声かけてみるか。

そう思った桃瀬は、あずさの方にもう一度向き直った。
「・・・あの」
桃瀬が声をかけると彼女はすぐ振り向いた。
「何かわかんないことがあったら、いつでも言ってよ。
隣の席になったのも、何かの縁だし・・・。」
その言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせた。
「ありがとうございます!・・・えと、何て呼べばいいですか・・・・?」
「あっ、俺は蒼馬桃瀬。」
「蒼馬さん・・・・よろしくお願いしますね!」
あずさの笑顔に、桃瀬の顔も思わず笑顔になっていった。


そう・・・彼女との出会いが、この後の自分の人生を
              大きく変えてしまうとも知らずに・・・・






             
 

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