*紅
□桜並木の平凡さよ・・・
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[チプロ]
暖かい春風に乗り、サクラ色した雪がひらひらと舞い落ちる桜並木。
そんな中を少年が1人、のんびりと歩いていく。
彼の名前は蒼馬桃瀬(そうま ももせ)、ごく普通の何処にでもいるような少年である。
勉強は良すぎず悪すぎず。体育はまあまあの成績だ。
彼は、今日から高校に通い始める。といっても、
彼が行っていた中学「如月中学校」はエスカレーター式なので、中学を卒業すれば、自動的に高校に上がれるようになっているのだ。
とまあ、そんな桃瀬は1人桜並木を歩きながらあることを考えていた。
平凡すぎる自分の人生に対する疑問や不安・・・
別にテレビに出てくるようなスーパーヒーローになりたいわけでもないし、
毎朝リムジンで送り迎えしてもらえるような金持ちになりたいわけでもない。
ただ、オレの人生はあまりに平凡すぎやしないか?
特別にすることがあるわけでもなく、ボーッとしているとあっという間に一日が終わってしまっている。
こんな毎日を続けていて、オレはまともな大人になれるのだろうか・・・。
桃瀬は、近くにあった桜の木の根元に腰を降ろした。
目の前を桜の花びらが何枚も舞い落ちる。
「ホンット、このままで良いのかなぁ・・・」
ポツリ独り言を呟く。
「「・・・どうしよう」」
独り言のつもりだった桃瀬の声が、誰かの声と重なった。
「・・・・え?」
驚いて辺りを見渡しても、誰も見当たらない・・・・・
すると、何処からか声がする。
「転校なんて初めて・・・友達できなかったらどうすればいいんでしょうか・・・・。」
木の幹から聞こえる声。桜の木の妖精・・・・?
そんな馬鹿げた考えを持つ桃瀬。
その考えを振り払い、忍び足で木の反対側にまわってみる。
桜の木の反対側にいたのは・・・・・・・1人の少女だった。
彼女は薄紅色をした着物を着ていた。
今時着物を着ている人なんて珍しいな・・・。
桃瀬は彼女に気をとられて、足元にある石に気づかなかった。
靴の先が石に当たり、転がっていく。
まずいっ気づかれた!
そう思ったときにはもう遅く、石は彼女の目の前で止まった。
少女は桃瀬に気づいてこちらを振り返った。と同時に、桃瀬は電撃に打たれたような感覚に襲われた。
まるで白ウサギのような赤い、大きく見開いたふたつの瞳。
それがしっかりと自分を捕らえる。
目が、逸らせない・・・・・・
全身が固まってしまったように動かない桃瀬。
少女は、そんな桃瀬をしばらく見つめてから、ゆっくりと立ち上がった。
そして、そっと微笑んだ。
「ここで会ったのは、何かの縁かもしれませんね・・・」
そういうと、その着物を着た少女は、桜並木を歩いていってしまった。
我に返った桃瀬は、大きく息を吸った。
さっきの出来事がまるで夢だったように感じる。
「誰だったんだ・・・・?あの子・・・・・・。」
そっと呟いた声は、美しく染まる桜並木に吸い込まれていった。
そして・・・・
“キーンコーンカーンコーン・・・・・・”
遠くからチャイムの音が聞こえた。
「やっべぇ!!遅刻だ!!!!」
桃瀬はそう叫ぶと、舞い落ちる花びらの中を全力で駆け抜けていった。