短編

□ある日の出来事
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いつも頭の上がらない人がいる―――



顔は良いし性格だって良い‥と、言っても

いつも意地悪ばっか言われるけど



そこには、いつも愛情が含まれている





―――
――




俺が初めて、その人に逢ったのは高校3年の冬休みの時



当時、ツルんでた奴の先輩に



「良い店知ってる」と連れてこられたのが最初の出会い




その店は未成年でも仕事してれば入店O.Kという珍しい店



先輩は、その店では顔が利くらしく俺達“高校生”でも入店できた




照明が暗いせいか煙草の煙で視界が白っぽくて


女の香水と酒と煙草の匂いが入り混じり


独特の世界観が漂っていた




「何飲む?」



初めて来る店の雰囲気に辺りを見回してた俺に先輩の声が掛かった



「ビール」






目の前で「‥即答かよ」と苦笑いした先輩はシカト




何だか大人な雰囲気でワクワクしたのを憶えてる




黒服を着た男達が、テーブルにオーダーされた物を運んでた




そのテーブルには必ず1〜2人のスーツを着た男が座って女に対応してる



しなだれ掛かり甘えた声を出す女



男の腕に絡まり、自身の体を押し付ける女




その女達の欲望を受け止め甘い顔で笑う男達






‥‥気持ち悪ィ



こんな童顔な俺でも女受けが良くて


女には困ったことがナイ




当時の俺は“高校生”で、盛ってた頃だから



そんな女の欲望を見ないようにして、俺の欲望を吐き出していた





けど、今俺の目の前に見える世界は全てが汚い世界




吐き気がする



女に







―――そして男にも





顔が歪んでいくのが自分でも分かった




分かったけど、自分ではどうしようもなくて




それを目に入れない様にグラスを傾けていた





「ピッチ早くね?」




ダチが俺の心配をしてくれたけど



それが逆に俺を煽った




「お前は、コイツ等を見て何とも思わねぇのかよ?」と




でも、ソイツや先輩はニヤついた顔をしてた





周りと同化してるみたいに






―――疎外感



否、違う




嫌悪感だ





黒くて粘着質の強いドロドロとしたモノが身体に貼りつくような感覚に寒気を感じた



そんな時だ。アノ人を見たのは



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