短編

□ある日の出来事
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カタカタとパソコンを打つ手がピタリと止まった。





「………」




…何だ? この違和感は?




周りを見回しても誰ひとりソレを感じてる人間が見受けられない。




「………」



何なんだ?




腰が落ち着かない。みたいな



浮足立つ。みたいな…



何とも奇妙な感覚に襲われる中、フッと過ぎった愛しい女の顔。




少しだけ思案し、その腕を電話機に伸ばした瞬間
身体に揺れを感じた。




カタカタと小さな揺れが、時間と共に激しい揺れへと変わった。





ガタガタと大きくなる音に混じって女の悲鳴が聞こえる。




大きな揺れは身体をまともに動かす事を拒む。




「ッ!デスクの下に潜れっ」




晃の重低音の声は、パニックを起こした周りの人間の耳に留まる。


転がりながらも隠れる者


這いながらも隠れる者




一様に身体を小さく折り曲げ



皆、自身を庇ってる中




フロアの真ん中で倒れてる女が目に入った。




どこかを庇う動作もなく、ただ揺さぶられてるだけ。

目だけで女の周りを見れば男だっているのに誰ひとりソイツを庇う様子も気遣う様子もない。


「チッ!」




小さな舌打ちを隠しもせずに



大きな揺れでバランスの取れない身体を動かしながら少しずつ女に近寄った。








何度転んだだろう




激しい揺れは一向に収まらず




色んな物が生命を持ち、好きなように動き回ってる様にも見える。






ガタガタと変わらず大きな音が響く中、ようやく女の近くまで来れた。





そんな時、すぐ近くで大きな音が鳴った。





バキバキッ



ガシャガシャンっ




その音だけでも何かが壊れたと分かる。




咄嗟に女の頭を庇った。





「ッ!?」




一瞬、女の身体が強張り固くなるのが分かったが



尚も続く破壊音。





パリンっとガラス製品が割れる高い音や



プラスチックや重い物が壊れる低い音が




そこらじゅうから聞こえる中




より一層、近くで聞こえる音は「怖い」と恐怖をアリアリと感じさせる小さな声だった。






「……大丈夫だ」





何が大丈夫なんかは分からないが、咄嗟に口をついて出た言葉は相手を安心させるモノ。



そしてそれを自身が願うモノ。


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