□に
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「着いたぞ」




駐車場に車を停めて相手を見れば




助手席から覗き込むように目の前のマンションを見上げていた。




(口開いてる‥)




ポカンとした表情に近いその顔に込み上げる笑いを耐える。




(また変な所でヘソ曲げられても溜まったもんじゃねーし)



「ほら、行くぞ」




運転席のドアを開けながら声を掛けると
慌てたような声が背中から聞こえた。




「は、はいっ!!ってアレ?」



何だ?




振り返れば



「いつの間にシートベルトしたんだろう?」




自分の体に貼りつくシートベルトを引っ張りながら、小さく呟いてる姉ちゃんが目に入った。




「さっき俺が着けてやっただろ。姉ちゃんは硬直してたけどな」




走りだす前、いつまでも反応しない姉ちゃんにイラッとしながら着けてやったソレ。




思いの外、二人の顔が近づいたことに驚きはしなかったものの



その瞬間に姉ちゃんの体が硬直し、顔を赤くしていたのに気付き
頬の筋肉が上がるのが分かった。




(可愛い反応してくれちゃってさ)



その後からモゾモゾと居心地悪げに動きだした姉ちゃんにちょっとした悪戯心を刺激された。





(その後が悪かったけど)




俯いて表情は伺えなくても、見るからに“泣くのを耐えてます”の格好に変な汗が出たのはほんの数分前だ。




何とか機嫌を直してもらったが、いささか疲れた。




俺の言葉にまたカチンと体を固めた姉ちゃんに苦笑が出る。





「早くしろって。いつまでたっても家に入れねーぞ」




姉ちゃんの荷物を肩に背負い声を掛ける。



「は、はいっ」




慌ててシートベルトを外し車を降りる姉ちゃん。




「取り敢えず裏から入るからな」




駐車場側にあるドアにキーを差し込む。




「あ‥あの…本当にルームシェアしてくれるんですか?」




エレベーターのボタンを押し、降りてくるのを待つ間に
今更な質問を投げ掛ける姉ちゃんに思わず膝が折れた。



「だ、大丈夫ですか!?」



いきなり蹲る俺に焦った声を出した姉ちゃんに呆れた視線を投げた。



「…ココまで来て、何を今更な事いってんだよ」





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