短編

□ある日の出来事
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どうか目の前にいる憧れの人に



大好きなアノ人が靡(なび)かないよう



大好きなアノ人が自分の隣から消えない様にと



必死な自分



「…何があったか知らねぇが、ンな暗い顔してんじゃねぇよ」




ポンポンと軽く俺の頬を叩く憧れの人は



やっぱり綺麗な微笑みを浮かべてて




余裕な顔してて



自分の気持ちが掻き回されて



どんだけ自分がガキなんだと思い知らされる




こんなんじゃ望サンを守れない



目の前にいる憧れの人の様に


大きな心があれば




――――自分がもっと早く生まれていれば



きっと今以上に望サンを守れる筈なんだ




「響、今何考えた?」



どんどんと暗く卑屈になってく俺の気持ちを察知したのか


さっきより鋭い眼光が俺を捉えた



「…俺、もっと早く生まれたかった

そしたら今より絶対に望サンを守れるのに」



「喧嘩でもしたのか?」



「違う‥いっつも思ってた

もっと早く生まれてればって」




自然と落ちていく視線



「……」




暫らく沈黙が続く空間に


ハァ…と小さな溜息が響いた



「響、俺の嫁サンのトシ知ってるか?」



うん。と小さく頷けば



「俺は響とは逆に、もっと遅く生まれてればって思った」



「え?」



憧れの人の突然の告白に驚き顔を上げた



「そういう時期もあった…けどな?」



そう言いながら新たな煙草に火を点けた



「もし仮に遅く生まれてた場合、今付き合ってるダチにも逢えてねぇって事だ」



???



意味がよく分からない



「つまりだ…ダチが変われば環境も変わる。って事は俺は嫁サンとだって逢えて無かったかも知れねぇって事」



ん?



「そしたらマジで惚れた女に逢えなかったかも…


そう考えたら今のトシの差が必要だったんじゃねぇか?って思えたんだ」



あ、何となく言いたい事が解ってきた



「俺には嫁サンとの歳の差、響には望サンって言う彼女との歳の差が必要不可欠なんだよ…


それがあっての俺達なんかも知れねぇ


だから…あんま悩むな」




「悩んだんだ?」



「あ? まぁな…マジになればなる程、恐くなった」


こんなに綺麗な顔をした憧れの人も悩むんだ




そう思えたら何だか、自分と憧れの人との距離が近くなった様な気がした



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