ヨロズ小説置き場

□☆桃薔薇の求めたモノ
2ページ/8ページ





「おい、雛苺はどうしたんだよ。」
ジュンは雛苺の姿が見えないことに気がついた。
普段なら自分が一起きるのが遅いはずなのだ、なのに起きて居間にいるはずの雛苺の姿が見えないのである。

「さぁ、夜更かしをしてお菓子を食べたりしてたんじゃねーですか?」
「お前なぁー…」
翠星石の言葉にジュンは呆れてしまった。
みんなはよく翠星石の引導に気づいてはいないが、雛苺は勝手にそんなことをするやつでない、ということをジュンは知っている。

「…ちょっと起こしてくるよ。」
「ジュン。」
部屋に戻ろうとした矢先、真紅に呼ばれる。
少し不機嫌に思いながらも彼女に視線を向ける。
「なんだよ…真紅。」
「レディの眠りを妨害するのは失礼にあたることよ。」
本に向けていた視線をジュンにかえて指摘してきた。
こんな時間になっても起きてこない、このことに疑問を持つべきなのではないかと思う。
だから、心配する様子が見えない彼女たちに苛立ちを覚えた。
「んんっ…ちょっと様子見てくるだけだ!」
居た堪れなくなったジュンは二階の自室へと向かった。


「…確かに遅いわね。」
真紅は懐中時計を取り出して時間を確認する。
ジュンが心配する気持ちがわからない訳ではないが、薔薇乙女は病気にかかることはない…。だから、翠星石が言うよに夜更かししたからではないか…という疑問に行きついてしまうのだ。
しかし、それ以外の心配があるのも事実である。
「…はぁ。」
数秒の間の後、真紅は二階へと上がっていった。



ジュンの部屋には鞄が三つある。
そのうち鞄が開いている二つは真紅と翠星石のものである。
残りの閉まっている一つはまだ眠っている雛苺のものだ。
朝食の時間は過ぎてしまっている。
ご飯の匂いだけで反応するほどの彼女が起きてこないのは異常だと思う。
ジュンは真紅に指摘はされていたが、そっと鞄に手を伸ばした。


ギィィ…


鞄を開ければ雛苺が眠っている。
雛苺の姿があることにジュンは安堵したが、雛苺がただ眠っているように見えなくて不安になってきた。
「ジュン…レディの寝顔を見るなんて悪趣味よ。」
「まったくですぅ」
「真紅、翠星石…。」
説教に来たと思われる真紅と翠星石、彼女たちを見たジュンは雛苺を抱き上げて叫んだ。
「雛苺の様子がおかしいんだ!」
「はぁー?チビ苺がおかしいのはいつものことじゃねーですか。」
「まじめに考えろよっ!!!」
「――なっ」
ジュンの権圧に翠星石は驚いているようだ。
真紅もジュンの異変を感じてジュンに抱えられている雛苺を見る。
その後を少し申し訳なさそうに翠星石も付いてきたが…雛苺がよく見える位置まで来て困惑した表情をした。

「―――っ」
「翠星石?」
翠星石は言葉を詰まらせてしまった。
そんな翠星石の異変に真紅も不安げだ。

「なんで…夢の扉が開いているですか…?」
「なんだよ、それ…夢の扉を開けれるのはお前と蒼星石だけじゃなかったのかよ?!」
ジュンは以前彼女たちが説明してくれたことを言ってはみたが、自分に失言があったことに気づき口元をてでおさえた。
翠星石の体が震えていたからだ。
「す…翠星石だってわからねーですよ!!蒼星石がいない今、夢の扉を開けるのは翠星石だけのはずですのに…なんでっ!?なんで夢の扉が開いてるですか!!?」
蒼星石のことを口にしたのは誤算だった。
彼女は水銀燈によってアリスゲームから脱落してしまったから…ここにいるはずがないのだ…。
それは翠星石の心に大きな溝を作った。
埋めることができないほどの大きな傷を。


「でも、夢の扉が開いたというのに貴女が気がつかないなんて…」
そうなのだ、この夢の扉は翠星石が認知できなかったことになる。
そう考えると謎が深まるばかりだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ